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連載長編小説『滅びの唄』第三章 教団清樹 3
翠風荘から戻り、昼食を済ませたところでメールを受信した。高瀧からの返事だった。が、差出人は高瀧ではなく、高瀧の秘書だった。
「杉本凌也様 私、高瀧の秘書をしている庄司と申します。
この度はS市劇場についてお話があるということですが、どういった御用でございましょうか」
「庄司様
この度S市劇場は撤去され、跡地には別の建物を建設することが決定しておりますので、定期的にご利用頂いている高瀧様にお伝えすべきであろうと考えた次第でございます。来月にも株式会社清樹様の公演が当劇場では予定されておりますが、撤去作業の開始時期によりましては中止せざるを得ない可能性がございます。ですのでこうして事前にお知らせさせて頂いたのです。
さて、話題は変わりますが、S市劇場で私は森岡珠里さんとお会い致しました。珠里さんによるともう十年も劇場で暮らしているようで、その十年前に劇場に珠里さんを連れて来た方が高瀧様と伺ったのですが、お間違いないでしょうか。
また、森岡珠里さんは二十年前の火災の際にお亡くなりになったとされていますが、実際は生きていらっしゃいます。つまり珠里さんは二十年前の火災を免れたのだと私は考えます。そのことと、高瀧様がS市劇場で定期的に公演を開かれることには何か関係がございますでしょうか。
以上のことを伺いたく存じます。
杉本凌也」
返信すると、杉本は昼食に使った食器を流し台に置いた。
深緑のカーテンの隙間から差し込む陽光が鋭い。カーテンが遮光して殆ど陽光は室内に入ってこないが、それだけに僅かに差し込む陽光の存在感は強かった。家具も最低限で室内は整っているほうだ。それでも埃は出る。その埃が陽光に照らされた。宙を舞う黄金色の埃がひらひらと空から降る鳥の羽のように見えた。羽に行き場はなく、拠り所を求めるように不規則に浮遊している。しかしすべての羽が、無常にも拠り所を見出せずに地面に落ちた。
杉本は、洗濯物を取り込んだ。
今日は朝から陽射しが強い。そのため昼下がりにはもう洗濯物は十分に乾いていた。すべて取り込んだ後、庄司から返信が届いていることに気がついた。先日送ったメールは返事に数日を要したため、今回も同様だろうと考えていたのだが、意外にも迅速な折り返しだった。
「杉本様
森岡珠里様の件につきまして、高瀧本人が直接杉本様にお会いして話がしたいと申しております。明日は地方での公演が控えておりますので、早速お会いになることは叶わないのですが、翌週であればS市に赴くことが可能と思われます。私共と致しましては月曜日、あるいは火曜日辺りにお時間を作っていただけると大変助かるのですが、杉本様のご都合のよろしい日を指定して頂ければ、こちらも都合を合わせます」
「庄司様
私は曜日に関しましてはいつでも構わないのですが、お会いできる時間となりますと、終業時刻の十七時以降となります。私に合わせて頂くのは大変恐縮ですが、十七時以降でお時間の取れる曜日を指定して頂ければと思います」
返信を送り、杉本は洗濯物を畳み始めた。またすぐに返事があるかと思ったが、次に庄司から返信があったのは、それから約二時間後のことだった。
4へと続く……