見出し画像

連載長編小説『滅びの唄』第三章 教団清樹 4

 まだ茜色の空は、劇場を燃やしているようだった。そう思うのは、二十年前の火災の象徴的存在だった珠里について、高瀧という謎の男と話し合うからだろうか。
 集合場所に指定されたのは市道沿いにまるでバス停の待合所みたいに置かれている三人掛けの木製ベンチだった。このベンチはもちろんバス停ではなく、劇場の周辺に置かれていた来場者を憩うためのものだった。火の手を免れたベンチが何台か残っている。その内の一つだ。
 かつては華やかな劇場を背に、洒落た憩いの場であったのだろうが、杉本はベンチに腰を下ろす気にはならなかった。塵となった劇場の残骸を背に、バス停でもない上に人通りが少ないこの場所で、一人腰を落ち着けていたら奇怪な目を向けられる。今度は杉本の存在が、珠里の歌声のように噂になってしまう。
 市道を走っていく車の中、杉本のちょうど目の前で一台の車が停車した。後部座席のドアが開くと、数ヶ月前舞台上に見た教祖高瀧の姿が見えた。驚いたことに、コンサートの時とまったく同じ服装だった。
 私服、ではさすがにないだろうけど、教祖として外出する時はこの衣裳だと決まっているのかもしれない。車を降りた高瀧は、地面につきそうなほど長い袖を持ち上げて手を差し出した。杉本はお辞儀しながら応じた。
「杉本と言います、わざわざこちらまで足を運んでくださりありがとうございます」
 杉本は本心で言った。そもそも事の発端は杉本にあるのだから、自ら出向いて話を伺うのが筋だと考えていたため、高瀧がS市まで来てくれたのは杉本としても非常にありがたかった。
 しかし名刺は出さなかった。劇場で催す公演についての話し合いなら仕事として名刺を提示しただろう。だが今は珠里について話をするのだ。名刺を提示する必要はないと判断した。それに、やはり高瀧含め株式会社清樹には胡散臭さが拭えない。
「彼女のお話ということですから」やけにゆったりとした口調で高瀧は言った。「私が出向くのは当然でございましょう。――おっ、今日も張り切っているようだね」
 高瀧は杉本の肩越しに視線をやった。杉本は背後の瓦礫のほうに耳を澄ませた。珠里特有の人間離れした高音が、水面の波紋を思わせるように彼女を中心として周囲一帯に広がった。
 珠里がヒーローと崇める高瀧の訪問は伝えていないが、敏感に感じ取っているのかもしれない。まだ陽がある内に歌い出すことは稀有なことだった。
「では早速、向こうに場所を移してお話を――」
「いや」と柔らかい声音で高瀧は杉本を制した。「彼女を邪魔しちゃ悪い。少しここに留まることにしようか。さあ、どうぞ腰掛けて」
 高瀧に促される形で杉本はベンチに腰を下ろした。高瀧は、杉本から一人分間隔を空けて座った。腰を落ち着けた高瀧は鳥が羽ばたく時のように腕を振り上げ、長い袖を膝の上に器用に載せた。
 静止した高瀧はこちらを一瞥した。話を始めろ、という合図らしい。
「私が伺いたいのは、大方メールで申し上げた通りのことです。まず、火災の後、珠里さんをここに連れて来たのは高瀧さん、あなたで間違いありませんね」
「その通りです」
「それは火災からおよそ十年後のことで合っていますか」
「その通りです」
「どうして火災から十年が経った時に彼女をここへ連れて来たんです? その十年という時間に意味はあるんでしょうか」
 高瀧は紫立つ空を見上げ、三羽で編隊飛行する小鳥に微笑み掛けた。
「深い意味は、なかっただろうね。でも火災から十年してこの地へ彼女を連れて来た理由はあるのだよ。二十代の頃は、海外に拠点を置いていて、日本よりも海外で暮らしている時間が長かった。でも三十代になる直前から、活動拠点を日本に移した。それ以来生活は逆転して、海外よりも日本で暮らす時間が長くなった。それでここの劇場でコンサートができると知ったものだから、公演前日に彼女を連れてここへ来た。それが火災から十年という、まあ一つの節目のような年だった。理由は以上で、偶然といえば偶然だが、今思えば運命だったのかもしれない」
「火災から珠里さんが劇場に足を踏み入れるまでの十年間、彼女をここに連れる時間を作ることはできなかったんですか」
「そうだね。日本に戻っていた時期も、東京から地方まで、飛び回るようだったから。昔は今よりも慌ただしくて。――素晴らしい歌声だ、きっと毎日稽古を続けているんだろう、この黄昏時に聴く彼女の歌声はまさに甘美だ。見たまえ杉本君、木々も喜んで色めきだっている」
 今は風すら吹いていない。したがって木々は静止しており、枝葉の擦れる音すらしない。株式会社清樹のホームページに「幼い頃から木々と対話していた」などと高瀧の紹介文が掲載されていたが、何とも信じ難い。今だって、高瀧に言わせれば木々と対話しているのかもしれない。杉本は、やはり会ってはならない人物と対峙しているような気がした。
「ところでなんですが」杉本は訊いた。「珠里さんと知り合ったのはいつですか? 火災当時、珠里さんは五歳でした。五歳では一人で生きて行くなんて無理です。高瀧さんが彼女と初めて会った時、彼女は誰かによって養われていたのでしょうか」
「いつ頃だっただろうか……二十年以上も前のことだから、正確なことは思い出せないな。でもあの火事の後それほど経たない内だったのは確かだ。現代では日常に着ないようなドレスを着ていた上に、ドレスも体も煤けていたから、声を掛けたんだよ」
「場所はどこですか?」
 高瀧は首を傾げた。「どこだっただろう? すまないが、記憶が曖昧なんだ。この質問は答えられない」
「この市内ですか?」
「どうだっただろう……。この市内だったんじゃないかな。五歳の少女が自分の足でそんなに遠くまで行けるとは思えない。でもそれだと、どうして僕はS市に来ていたんだろう。コンサートの予定もなかったのに」
 高瀧は苦笑した。歯切れの悪さに違和感を持ったが、二十年も前の記憶のため、記憶が欠落していることもあるのかもしれない。訊きたいことは他にもあるので、杉本はそちらを優先することにした。
「少し話が前後しますが、高瀧さんが珠里さんを初めてここに連れられた時のことを伺います。つまり火災から十年後の某日です。どうして珠里さんを劇場に、瓦礫に残して行ったのかということです。珠里さんは十年前にここに戻って以来、ずっと劇場の敷地を出られないでいる」
「それなら――」
「珠里さんのご両親がここには存在するから」高瀧を制して杉本が言った。「私は珠里さんからそうお伺いしています」
「その通り。まったくその通りのことを彼女が口にした。だからここに留め置いたんだよ。でも置き去りにしたわけじゃない。きちんと彼女の生活を支えているんだから」
「確かに珠里さんはご両親を失った悲しみで、もしかすると亡霊のような超常的なものが見えているのかもしれません。でもそれは珠里さんの精神的な状態が影響しているのであって、実際に霊は存在しませんよね? それを高瀧さんは、あっさりと納得されたんですか」
 責めるように杉本は言ったつもりだったが、高瀧はあっさりと頷いた。
「霊が見えることは何も不思議なことじゃない。あいにく僕に霊感はないんだが、この惑星に生きる自然達とは会話ができる。僕にとっては普通のことでも、どうやら他人にしてみれば普通ではないようだし、だから人類には、僕や彼女のような選ばれた者もいるってことだ。だから彼女が両親の姿がここの劇場にあると言っても不思議には感じなかったよ、なぜなら彼女の両親はまさにこの劇場で命を落としているんだから」
 杉本には到底納得できるはずのない理論だった。百歩譲って高瀧自身が特殊な能力を扱う以上、珠里の霊感を否定しないことは何とか理解できる。が、そもそも高瀧の持つ能力を一体どうやって認めるというのか。感情を持たない自然との対話などあり得ない。
 しかしこれ以上高瀧の能力について議論しても意味がない。猿回しのように木々や野花を意図して動かすというのなら話は別だが、根を張ってその場から動けない木々では動かしようがない。つまりこれは証拠のない水掛け論なのだ。
 ただ、珠里が見ている両親の姿というのは、杉本はその身を持って一度体験していた。彼女の両親の亡霊が、あるいは魂が劇場に浮遊しているなどと信じてはいないものの、心の片隅で否定し切れていないのも事実だった。
「それから二ヶ月に一度高瀧さんが開かれているコンサートですが、これについて、珠里さんの存在は関係しているのでしょうか」
 珠里の両親の亡霊に関しては、追及しない。杉本はただ、珠里が劇場に棲み付くことになった理由について、高瀧の話と一致するかを確かめたかっただけだ。
「もちろん彼女の様子を確認するというのが一つの目的としてある。でも一番の目的はやはり、あの悲惨な事故を知る者として少しでもこの街の傷を癒したいと思うから。もう焼け落ちて、劇場の姿はないけれど、それでもコンサートを開けるなら僕は足を運ぶ。それにここの劇場は今の姿となってさらに素晴らしいものになった。僕の理想だよ」
「理想……ですか?」
 杉本は甲高い歌声のするほうを見て頬を歪めた。この瓦礫に埋まった灰の劇場を理想の姿など、いったいどんな思考回路を持っていればそう思えるのか。
「僕はね杉本君、僕を尊敬してくれる人々によく話すんだが、木々と対話することで自然の生み出す音を感じられると考えている。実際にやってみるといい。その内木々の内に秘めたる声が聴こえて来る。そして外側に放たれた、例えば風に揺られる音、幹の軋む音なんかから彼らと対話することができるようになっていくんだ。それに気づいた時、人々は人間の生み出す音楽の尊さを知ることができるんだよ。だから僕を慕ってくれる人々は、音楽の神髄に触れている、音という宇宙と自らが内包する体内に広がる宇宙を感じているんだ。杉本君はどうだろう? 君の宇宙は、どんなものだ」
 杉本は戸惑った。仕事や私生活といった自分の手の届く範囲のことですら漠然としていて、満足な感触を得られていないというのに、宇宙など――それも自らが内包する宇宙など知るわけがない。
そもそも、こんな妙な問いの答えを真剣に探していることがおかしいのだ。
「難しく考えなくていいんだ。君の宇宙だ、さあ目を閉じてごらん、見えてくるだろう?」
 杉本はついつい瞼を伏せた。しかし何も見えない。黒く閉ざされただけの、星一つ輝かない闇だ。これを宇宙とは呼べない。杉本は、数秒で目を開けた。
「何も見えません」
「初めはそうかもしれない。だがその内見えてくるはずだ。では自然はどうだろう。君の好きな自然――植物でも動物でも、山でも川でも何でもいい。思いついたものを聞かせておくれ」
「山、ですかね」
 目の前の市道に木々が並ぶというのに、それを視界に捉えていたというのに、杉本はそう答えた。高瀧の問いに翻弄されるのを嫌ったのだ。「木」などと答えたら、きっとまた対話がどうだと話し込まれるに決まっている。
しかし杉本は確かに自分の中で山を思い描いたのだ。その山がこの劇場の背にそびえるものなのかはわからない。ただ、劇場へ来る度に視野に佇むこの山が、いつしか杉本の中で印象に残っていたのは確かだった。
「山か……なるほど。では君の中に広がる宇宙はどんなものだろう」
「わかりません。私の中に宇宙なんて広がっていませんから」
 杉本の返答に何を納得したのだろう。そしてなぜ宇宙の話に戻ったのか。このままでは高瀧のペースに引き込まれてしまいそうで嫌だった。
「よく考えてごらんなさい。杉本君の奥底にはどっしりと動かすことのできない硬くて強い意志がある。そんな君の中に宇宙が広がっていないわけがない。宇宙と自然は繋がっているんだ。さあ、もう一度君の中の山を思い浮かべるんだ」
 やはり高瀧は胡散臭い。宇宙だの自然だの、杉本にとって、いや普通に生活している人々にとってはどうだっていいことばかり話している。まともに相手をしてはいけない。高瀧の能力が何だというのだ、そして高瀧の戯言を真に受ける信者らはいったい何なんだ。
「今こんな話はどうだっていいんです。宇宙とか自然とか、私には関係ありません。今はただ、珠里さんのことをお話したいだけです。あいにくですが、私は高瀧さんの教えも、教団にも興味関心がないんです。だからこの話はこのくらいにしましょう」
 これ以上追及されると気が狂ってしまいそうだった。宇宙とか自然とか果てのない壮大な話をしているようで、こそこそと心の内側を覗かれるようで不快だ。ゆったりとした口調が胸の奥を撫でるように真理をあやそうとする。
「高瀧さんがこの劇場でコンサートを開く理由についてはよくわかりました。S市を思って下さるお気持ちも嬉しいです。でも、チケットが無料だからといって他の物販物の値段が高過ぎではありませんか」
 杉本は、フィンランディアコスモ天然水や流木、そして石と古着を思い浮かべた。枝野と共にコンサートに参加した時と今も考えは変わらない。あの日見た天然水の値段は高過ぎる。高瀧とこうして会うことが決まってから株式会社清樹のホームページを確認したが、そこでは天然水に加えて流木、石までもがネット通販で販売されていた。そちらの値段は手数料の関係か、コンサート会場で販売されている価格よりも少し高かった。
「うん、確かに少し高い。でもあれはただの水ではない。かつて二十代の頃、海外ツアーをしている時に僕が運命的に巡り合った湧き水だ。極寒のフィンランドの透明度が高い湧き水で、冬の凍土から溶け出すものだから神秘を感じられる。厳しいフィンランドの冬、さらには夜空に美しいオーロラを浴びた、自然と宇宙を感じられる水だ。これを聖水と呼ばずに何と呼ぶ? だから決して高くはない。体内に神秘を注げる水だ。君も興味があればぜひ――」
「結構です。あの水を買えるほど経済的な余裕はありませんから。そういえばコンサート会場には私くらいの年代の方もお見掛けしました。どうやら高瀧さんを崇拝される方々は皆さん揃ってフィンランディアコスモ天然水を手にしていましたが、あの値段の水を度々買っていたら困窮してしまう、もっと言えば破産してしまう人もいるのではありませんか」
 決して大袈裟ではなく、現実的なことを杉本は口にした。なぜなら高瀧は各地でコンサートを催しており、その度に、余程の理由がなければ信者達はコンサートに出席するという話だった。そのため物販に落とす費用は計り知れず、尚かつ交通費も莫大だ。杉本と同世代で高瀧を追っかけていたら、家計が追いつかない。
 実際インターネットでは株式会社清樹のせいで破産したというものや、騙されたと嘆きの投稿をしている人もいた。
「それは僕達とは関わりのないことだね。確かに公演には必ず物販を置くが、購入を強制しているわけではない。自然との対話、そして宇宙を示す僕の音楽に共鳴してくれた人々が自らの自由意志で買い物をしているだけだ。僕が水を勧めても、杉本君のように断る人だっているのだから。それとも僕は、杉本君に水を買うよう強制したかな?」
「いや、それはされてないですけど……」
「つまりはそういうことだよ」
 高瀧は紺から黒へと色を変える空から杉本のほうを見た。そしてにっこりと微笑んだ。教祖と崇められる男の笑みは柔らかかった。が、その瞳の奥には炎が音を立てて燃えるような獰猛さと、自然が無表情の下に隠し持つ超大な狡猾さが存在していた。
 杉本は、高瀧を信用してはならないと思った。教祖という胡散臭い存在でありながら、腹の奥底では何を考えているかがわからない。
 杉本は、高瀧に心酔している珠里を憂いた。
「どこへ行くんだい?」
 立ち上がった杉本に高瀧は言った。
「もう向こうに移動してもいい頃かと思いまして……」
 すでに珠里の歌声はなくなっていた。杉本が高瀧と合流した時にはまだ茜色だった空もすっかり陽が暮れて薄気味悪く染まっていた。
「せっかく来たんだから、僕も彼女に会うことにしよう」
 巻物を解くように高瀧は袖を広げた。地面に擦れる裾だけが、静まり返った劇場に音を鳴らした。
 珠里の棲む祠の前で杉本は彼女の名前を呼んだ。例の如く少し間を置いて顔を覗かせた彼女は、高瀧を認めるとすぐに教祖に飛びついた。その様子を見ながら、珠里にとっては教祖ではなくヒーローだった、と杉本は考えていた。
「やっぱり高瀧さんも来てたんだ! 会えて嬉しいよお」
「僕も嬉しいよ、元気にしてたかい?」
「リョウヤがいたからね、いつもより充実してたの。リョウヤ、毎日来てくれるんだ」
「それは良かった。珠里はすっかり親しくなったみたいだね」
「高瀧さんは? リョウヤと一緒にいたじゃない。仲良くないの?」
「いいや、杉本君とはわかり合えそうだ。でも、どうやら彼は僕を警戒しているらしい」
「宇宙の話をしたからじゃない?」
「その通りだ、賢いな珠里は。これまで一度で僕の話を理解してくれた人はいない。誰しも必ず音楽を聴き、そして心を通わせてきたんだ。だから彼とも、すぐに親しくなれるよ」
「今日ヴァイオリンは?」
「持って来ていない。明日コンサートだから、もう向こうに運んであるんだよ」
「そっか……。シンジュさんがさっき来たから、てっきりヴァイオリンも持って来てるんだと思ってた」
「ちょっといいかな?」
 杉本は二人の会話に割って入った。
「そのシンジュさんってもしかして……」
「シンジュ社長だよ」
 なるほど、それでさっき「高瀧さんも来てたんだ」と珠里は言ったのだ。高瀧について下調べした時、杉本は当然株式会社清樹のホームページを検索した。そこで知ったのだが、教団の長は高瀧なのだが、教団を抱える株式会社清樹の社長は高瀧ではないということだ。その人物こそ「清樹」と名乗る女性なのだった。ホームページに記載されている内容によると、清樹は高瀧の従兄妹であり、幼少の頃から木々と対話する従兄の姿を見て育ったため、その能力の裏付けに加担しているようだった。
 清樹は女性とのことだから、珠里の身の回りの世話をするには高瀧よりも適任かもしれなかった。
 そんなことを考えていると、高瀧と珠里の会話が弾んでいた。どうやら珠里と杉本が知り合ってからのことについて話しているらしかった。
「杉本君は芯がしっかりしている青年だ。だから僕としても、珠里と時々会って話をしてくれることには賛成だよ」
「うん、私もそう思う。リョウヤ、良い人だもん。私を見て、パンと牛乳を持って来てくれたりする。だから高瀧さんともすぐに仲良くなれるね」
「その通りだ。次に会える時を楽しみに待とう。――杉本君、次に会う時までに今日僕が訊ねた質問の答えを考え出しておいてくれたまえ」
 高瀧を崇拝する珠里の手前、否定することができなかった。しかし首肯することもなく、杉本は劇場を去る高瀧を眺めていた。
 高瀧を迎える車の後部座席が開いた時、その車内に女性の姿が僅かに見えた。

5へと続く……

いいなと思ったら応援しよう!