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マイクラ的・生き延びるためのプロセス

 あさ8時、名もなき世界。スマートフォンは繋がらないし、地図は役に立たない。文字通りの“手ぶら”だ。ここが何処でなにをすべきか、それすらも見当が付かない。

 だが、私はとにかく生き延びなければならない。助けが来るまで(来るかどうかもわからないが)、少なくとも数日は耐えられる仮拠点を拵えるのが今日の目標だ。さあ、生きるぞ。元の世界へ帰るぞ。……これは、クリーパーやゾンビの襲来に翻弄されながらも、勇敢に日々の暮らしを築き上げた青年の一日の記録である。

8時00分:ここはどこ?

 草原に放り出された私。見渡しても集落はなく、小さな森と遠くには高い山が望める。こんな時、やるべきことは大きくわけて三つだ。

 ① 安全な寝床の確保
 ② 数日分の食事とその後の準備
 ③ 土地と資源の把握

 ひとつめ。寝床の確保は最重要課題である。獣たちに喰われないように、安心して寝付けるように、四方を壁に囲まれた原始的拠点を作らなければいけない。材料は木、もしくは自然の土だ。最悪、松明さえ確保できれば、地面に穴を掘って塞いでしまえばいい。中で眠れば良いだろう。

 ふたつめ。食事は生きていくために欠かせないものだ。動物たちの命をいただくことが最も手軽なエネルギー吸収法だが、長く生き延びていくためには農耕の第一手段として畑を築く必要がある。水源と、耕された土と、スコップ・鍬の出番だ。

 みっつめ。土地と資源はある程度把握しておいた方がいい。もし、現在の土地が不毛の地であれば、準備した上で別の土地へ移住しなくちゃね。

 ……私にサバイバルの経験はないが、これくらいのことは知っている。今日は拠点と寝床の確保が最優先だ。さあ、冒険を始めよう。

9時00分〜12時:原始時代の到来

 手始めに、森へと向かう。奥にはかなり暗くて高い木々が自生しているが、今は手を付けなくてもいいだろう。まずは家や道具を作るための木材や枝を確保するのだ。

 斧のない木こりは大変だ。もちろん、手刀で木を切るわけではないから、包帯の準備は要らない。ただ、かなりしんどい作業だ。めっちゃしんどい。真冬なのに、汗はびっしょりである。この服、どこで買ったんだろう?

 ……数時間後、とりあえず落ちていた台車で持ち運べる分だけの木材を確保した。そして、木材を組み合わせ、簡単な作業場と斧・つるはし・刀・スコップという“四種の神器”を作ることができた。(私はレシピなんて知らないので、置き手紙を残してくれていた以前の持ち主のおかげである。)

 何はともあれ、原始時代の到来だ。

12時〜14時:石と光を確保しよう

 簡単な装備を作り上げた後、私は改めて森の中を見渡してみた。すると、小さな洞窟が見えるではないか。何があるかわからないけれども、何かアクションを起こさないことには状況は好転しない。とりあえず行ってみよう。私は即席の剣を片手に、洞窟へと入っていった。すると。

 !?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?

 なんだ、この生き物は。緑色の人間と黄緑色の不思議なクリーチャーがいるではないか。しかも奇妙な音を発している。こういう時の対処法は……斬ってみるしかないでしょ!!

 当時の私には妙なアドレナリンが出ていた。アドレナリンとは、すなわち勇気である。私は緑の人間たちに剣を突き刺した。彼らも武器で抵抗するが、なんとか致命傷を受けずに攻撃できている。一体、二体、三体……攻撃を加えるうちに人間たちは倒れていくが、形としての遺骸は残らない。そんなことはどうでもいい。やるしかない。生き残るには、戦うのみだ。

 その時だった。一体だけいた、緑のクリーチャーの全身が発光しているではないか。これはやばい。爆発するかもしれない。私は咄嗟に逃げた。二メートルほどの穴はあったが、火事場の馬鹿力で飛び抜けてみせた。

 ドーン!!!!!

 クリーチャーは爆発した。しばらくして、爆発したクリーチャーの名前が『クリーパー』だというのを知ることになる。

 私は恐怖を感じた。松明を作るための石炭と、なんとか持ち運べるだけの石をかき集め、再び草原に戻った。ふう。生きてるって素晴らしいな。

15時〜17時:家を作ろうか

 家の設計図を地面に書き記していた時、ある重要なことに気付いた。

 木材が足りない!?!?

 そう、あまりにも装備に木材を使いすぎてしまったため、家を構成する木材が足りなくなってしまったのだ。しかし、松明やベッドのために木材は使いたいし、これ以上森にこもるとまた奇妙な動物たちが出現するかもしれない。とにもかくにも、計画は白紙。やり直すしかない。

 私はスコップを持ち、地面に穴を掘った。なんとか凌ごう。後のことは明日考えよう。時間は残されていない。本来、数時間で家を作るなんて不可能だが、この世界はやけに早く地面を掘れる。

 太陽の傾きから推測すると、二時間と数分後。頭上は立てるくらい、幅は装備庫と作業場、ベッドがようやく置けるくらい。松明は必要最低限。即席の家が完成した。

17時〜19時:生命維持装置

 ここからが大変だ。太陽は異常なスピードで下降を続けている。だが、私のやるべきことは多い。ご飯、ベッド、家のドアを塞ぐこと。

 最初は羊を追い回す。羊毛と、肉。ベッドと保存食のためである。心は痛むが、生き残るためにはしょうがない。すまん。二匹の命をいただいた。幸い、彼らは無抵抗だった。

 次に、夕食のために自生している野菜をとる。なぜこんな所に生えているかはわからないが、ありがたくいただこう。

 そして、家のドア。これは何度か手を痛めそうになったが、比較的簡単だった。

 気づくともう太陽は目の前に来ている。やばい、間に合わない。急げ、急げ、急げ。遠方からはクリーチャーたちの声が聞こえ始めている。その声が近づいてくる!

 私は台風の夜にドアを木材で補強するように、屈強な壁を無理やり作り上げた。クリーチャーたちの声はもう間近にあるが、おそらくこの壁を破ることは出来ないだろう。きっと、なんとかなる。大丈夫。大丈夫だ……

20時〜21時:夜明けへの願い

 突然放り出された世界で、最初の一日が終わった。寝床は地面に穴を開けた簡素なものを作れたし、ベッドも食事も作業場もある。

 改めてこの世界で生きるとは、誰かを犠牲にすることだと学んだ。それに、世界には思った以上に危険に満ち溢れているのを知った。正直、恐怖でしかない。見知らぬ生き物たちが自然の中をたむろしているし、自らの降り立った土地が本当に豊かな場所なのか、そもそも助けが来るのか、不安だらけだ。

 しかし、希望はある。私は一日生きてみせたじゃないか。二日、三日、一週間、一ヶ月、一年。きっと生きてみせられるはず。私なら。

 明日のことは明日考えればいい。だから、今夜はぐっすり眠ろうと思う。夜明けを迎えられると信じて。

結び:マイクラ的・生き延びるためのプロセス

 この物語は、あくまでもフィクションの中に生まれたリアルである。しかし、マインクラフトという世界の中で、私たちは様々なことを学んだ。

 農耕社会の基本、モンスターに襲われた時の対処法、安全に夜を明かすための家の作り方、洞窟に入る時はちゃんと装備を整えてから入ること、爆発物からは逃げること……

 サバイバル・モードではないと思うが、現在では教育機関でも活用されているそうだ。回路設計や簡単な建築デザインの作成など、すべての世代の人が苦なく楽しめる設計が施されている。かつてプレイしていた人も、今からプレイする人も、まだまだ楽しめるはず。

 究極的に自由な世界で、自分だけの明日を見つける。作り出す。

 開拓者精神に満ち溢れたあなたへ。もう一度、この世界で冒険を始めてみませんか。ここに招待状を贈っておきましょう。

 P.S)UIがめっちゃプレイヤーに優しくなったよね。

 2021.5.22
 坂岡 優

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Yuu
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