街を歩こう
新しい街にこれから長く世話になるという時、わたしは必ず、その街をぐるっと一周するようにしています。数時間で歩ききれない距離なら、何日かに分けて。おもしろそうな場所をメモしながら、時には好きな音楽をかけ、時には環境音を愉しみながら、ゆったりとした時間を過ごすのです。
理由がいくつかあります。まず、街の構造を知るため。建築物の相関、都市の人々の流れ、歴史観、デザイン、あらゆる側面から分析するのです。次に、住民や来訪者として生活するにあたって、どのように生活を営むのがもっとも好ましいかを測るため。まったく知らない街では同じようなチェーン店ばかりに足を運ぶことになってしまうので、それは避けたいですよね。最後に、街そのものの道路に対しての好奇心。よほど迷わない限りはGoogleマップも見ませんし、事前に下調べもしません。もし迷って遠くへ行ってしまっても、公共交通機関に乗ってしまえば、最寄り駅までは無事に帰れます。
そういった営みの先に、ようやく日常が始まるものと、わたしは考えています。逆に言うと、これを終えるまでは、まだ旅行者や部外者と変わらないものと捉えているのです。
レビューやアワードは、人を気楽にさせます。しかし、実際に訪れてみると、わりとつまらないです。そこに新しい発見は乏しく、ある程度、予想の付くものに満足するかしないかの話題に主題がすり替わってしまいます。それに加えて、評判は時に嘘をつき、多分に誇張されます。個人の視点は、往々にして、そういった側面から逃れることが難しいのです。誰のせいでも、何か特効薬があるわけでもなく、宿命とでも言いましょうか。
だからこそ、大地を踏み締めて、歩きましょう。いつもは通らない道を通ってみましょうと、わたしは言いたいのです。
徒歩なら、時刻表はありません。制限速度もありません。煩わしいルールやマナーもありません。体力と時間の許す限り、街を自由に散策できます。
かつては自動車に憧れたこともありました。でも、時の流れとともに、自動車を運転したいとは思わなくなり、もっとも身近な手段である徒歩に価値を見出すようになりました。できるなら、すべての暮らしを徒歩で完結させてしまいたいとさえ思います。現実的ではないかもしれませんが、個人的な理想です。
どんなに住み慣れた街にも、まだ知らない店や場所があります。そこに辿り着くために、歩く、普段とは違う道を通ってみる。そんな勇気を、わたしは大切にしたいと思います。
2024.10.23
坂岡 優