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20人殺し《03》

 日本を代表する朝比奈不動産(詳しくは「蝉が一匹、力無くジーと啼いた」をご参照ください)。その跡取り息子である雅美は、朝食をとりながら妄想に浸っていた。
 というのも、新聞の広告欄にデカデカと尋ね人が出ているからであった。

【尋ね人】
御名前 田上 慎吾
御年齢 26歳
連絡先 喜多川法律事務所
    03-1234-5678
    弁護士 喜多川啓介

「ねえ、郁さん、コレ見て? 今どき尋ね人の広告を出してる人がいるよ」
 郁さんというのは、雅美のお手伝いさんである。
「あらまあ、こんなに広く紙面を取って。でも、広い割には情報が少なさ過ぎませんか?」
「ねえ、普通は名刺くらいの大きさだよね。今どき新聞に尋ね人って、、、」
「はあ、でもまあ、困っている人がいるんでしょう、家出でしょうかねえ」
「ええ? 26歳だよ? 家出ってわけないよ、、、」
「はあ、それもそうですねえ、名前と年齢しか分かっていないのかしら」
「うん、これだけ紙面を割いているんだから背格好とか何かの特徴とか書いてもらわないと探しようがないよね」
「まあ、ダメですよ雅美様、首を突っ込もうとしちゃ」
「え? なんでそういうこと言うの?」
「だって、『探しようがない』なんて言うから。それにさっきから、スクランブルエッグをコネコネしてるじゃありませんか」

「おはようございますー」
「あ、寺岡さんだ」
「今日もミーティングがあるんですか、雅美様」
「うん、定例会、定例会」
 寺岡というのは、元朝比奈不動産横須賀支店長で、「蝉が一匹、・・・」でかなり世話になった人物である。今は、朝比奈御殿がある渋谷で不動産業を開業して、雅美の手となり足となって、基、雅美と共に数々の難事件に挑んでいる。
「寺岡さん、おはよう」
「雅美様、おはようございます。今日は、そりゃあもう、興味深いネタを持ってきましたんで」
「へえ、寺岡さん、もしかして、尋ね人じゃ?」
「ヒェ? なんでご存じなんですか」
 横で郁さんがプーっと吹き出した。
「だって、あれだけデカデカと新聞に載ってれば、誰だって気づくでしょ」
「田上慎吾って人のことですか」
「そうそう」
「新聞に?」
「見てないの?」
「ええ、見てません」
「ん? じゃあ、何故、寺岡さんは知ってるの?」
「連絡が入ったんですよ、加納さんから」
 加納というのは、元刑事で今は再犯防止のNPOを設立し運営している。雅美は彼にも「蝉が一匹、・・・」で大変世話になっている。その時以来、寺岡と加納は事あるごとに朝比奈の自宅、初台御殿へ集まって定例会を開いているのであった。
「へえ、そうなんだ、じゃ、加納さんも来るかな。でも、まあ、玄関先じゃなんだから、どうぞ入ってください」

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