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連載《教え子22~塾講師と生徒~淡くてほんのり苦い物語》「自習」

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入試対策講習も半ばを過ぎると、そろそろ過去問を大問題別に分類したテキスト(当然自作)を配らねばならない。
というのも、生徒たちは中学校の定期テストを受けながら塾の講習に参加しているわけで、まだ教科書を全て学習していない。
だから、塾としては入試対策と言いつつも内申点に関わる定期テストを見過ごすわけにはいかないわけで、前半は内申点対策と言って良い。
学校にもよるが、内申点に関わる定期テストが終わるのは、12月初旬。
彩子は、ほぼ全科目で90点以上をマークして、ニコニコしながら報告しにきた。
「沢崎先生、いるぅ?」と、彩子。
「おう、玉城さん、テスト戻ってきた?」と、俺。
「うん、見て見てぇ」
「うおっ! すげえじゃん、みんな90点以上!」
「ウ・フ・フ・ウ〜」
やべ、色っぺえ。。。
「でもねえ、なんでこれが間違えたのかわかんないの」
「どれが?」
「うんとねえ、これ」
バカ、顔、近ええよ。。。
う、シャンプーの匂い。。。
彩子が問題用紙を広げて指を刺した。
そこへ目を移すすがら、シャツの合間に胸の繊細な皮膚が目に飛び込んできた。
ハーゲンダッツのバニラより白くて、
セブンイレブンのあんまんよりフワッとしてて、
俺の手のひらにもある毛細血管が俺のより細く走ってて、
小さな小さなホクロが北斗七星のように連なってた。
ゴックン。
「玉城さん、じゃ、空いてる教室、行こか」
「ウン」
彩子を見ると、その目はウルウルしていた。待ってましたとばかりに。
15歳の中3に、そんな魔力があるなんて。俺っておかしいのかな。
俺は、スリッパをペタンペタンと鳴らしながら、職員室内背後の圧力に精一杯の抵抗を見せながら、教室へと向かった。
別に変なことするんじゃありません。
生徒の質問に答えるために、講師の役目として接遇しに行くんです。

教室に入ると、彩子はもう上着を脱いでラフなカットソー姿で筆記用具を出し始めていた。この寒いのに下は膝上5cmのスカートをはいている。
「先生、入試対策のテキスト作りで忙しいから、あんまり時間取れねえぞ」
「ウン、いいの、それでも」
「いいのか、それでも」
「ウン」
ここが職場でなかったら、じゃどこならいいんだと独りツッコミしながら、
この可憐でウルウル眼の少女を力一杯抱き締めて、
「一生、俺についてこい」
と言っていたに違いない。
それを知ってか知らずか、この子は「ウン」と言ったのだ。
「はい、どこだっけ?」
「ねえ、先生、あのね、」
「何?」
「もしね、高校に受かったらね?」
「受かるよ、霞ヶ丘なんて。なんてって言っちゃほかの生徒に失礼か」
「受かったらね」
「うん、何」
「好きなもの、おごって?」

真っ白になった。
多分、はたから見たら、ポカーンとしていたに違いない。

「おごるって、何?」
「なんでもいいの」
「だって、今、好きなものって言ったじゃん」
「先生の好きなものは、私も好き」

真っ白になった。
多分、はたから見たら、ポカーンとっしていたに相違ない。

「ダメ?」
「いいよ」
「え? マジで? 本気で?」
「だから、いいよ」
「ヤッター! 私、頑張る!」
「わかったから、問題見せなさい」
「もういいの」
「へ?」
「もう、なんで間違えたか知ってるから、いいの」
「じゃ、おごってほしくて、来たんか」
「だって、他の眼が・・・。壁に耳ありとも言う」
俺は笑うしかなかった。

「じゃ、玉城さん、わかったね」
「はい、ありがとうございました」
「今日は授業あるの?」
「はい、塾長の理科があります」
「あ、そう。じゃ、それまで自習すんのね」
「そうします」

職員室に戻るすがら、何気なく塾長を見た。
塾長は確信しているな。
でも、もう、俺は決めた。
あいつを霞ヶ丘高校に入れて、高校になっても担任であり続け、卒業するまで見届けて、大学に進学したら、その時はっきり言おう。
「一生、俺についてこい」と。

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