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連載《教え子23~塾講師と生徒~淡くてほんのり苦い物語》「彩子の考える“進学とは”を知って、『大人だな~』と感心する」

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 もう中学校では、担任の先生が生徒一人ひとりの内申書を志望校へ提出する時期に入った。
 俺はまだ、彩子の志望する霞ヶ丘高校は彩子の成績から相応しくないと思っていた。
 俺は、前回課した宿題については、採点までやってくるように躾ている。
 何故なら、お金を払って受ける授業でのんびり答え合わせなどやっていられないから。
 採点して、“合ってはいたのだが、何故○だったのか”、“何故×だったのか”、その質問や疑問を受けることから始める。
 彩子は、全問正解で、よく質問した。
「先生、この問題はこれこれこういう風に解けばいいのですよね?」
「玉城さん、そのとおりです。みんな、自分でも説明できますか?」
 いやあ無理って顔をする生徒もいれば、できると思うって顔をする生徒もいる。
 だから、俺は、
「じゃ、△△君、この問題はどうやって解けばいい?」
 と、投げかける。
 俺は、自力でどうやって勉強する方法を身に付ければいいのかを、有料の授業で教えているわけで、楽しく仲良く授業をするつもりはない。
 もちろん、一朝一夕でそのような授業運営ができるわけがない。
 日々、口を酸っぱくして生徒に言って訊かせる。
 その集大成が高校入試対策講座であって、みんな俺がどんな授業スタイルなのかを充分理解している。

 それ故に、折角、実力を伸ばした彩子には、県立御三家へ通ってほしいのだ。

 ある日、俺は彩子を授業後に呼び出した。
「なあ、玉城さん、やっぱり霞ヶ丘にすんの? 御三家に行けるよ? いいの?」
 すると、彩子は、またウルウルした目で、俺を見て、
「なんでそんなこと言うの? 私の気持ちなんか全然わかってないじゃない」と言って、パーッと教室へ戻ってしまった。
 へ? 俺が何かしたか? 俺が何か間違ったこと言ったか?
 俺は、ただ、呆然と立ち尽くしているしかなかった。

 職員室に戻り、塾長にそのことを話した。
 すると、塾長はこう言った。
「沢崎先生、あの子はあの子なりに真剣なんですよ。 わからないんですか? 進路面談で何を話したんですか? あの子の真意を深く考える必要がありますね」
「はあ」
 まったく、二人とも何を言っているんだ。
 御三家に入れるようになったら、俺にとっても彼女にとっても塾にとってもウィン・ウィン・ウィンじゃないか。
 全然納得していない顔を見かねて、塾長が寄ってきた。
「彼女、どうしてウチに入塾したか、言ってませんでしたね。
 あの子は近所の友だちから沢崎先生の評判を聞いて入ってきたんです。
 あの子は、勉強がまるっきりできないわけではないけど、嫌いだったそうです。
 それを聞いた友だちが、この塾に面白い先生がいるから行ってみれば?ってアドバイスされたんです。
 夏期講習の頃だったかな、親御さんから電話がかかってきて、
『ウチの子が勉強が楽しくなって嬉しいと言うようになったんです。ありがとうございます。今後も沢崎先生にぜひ教えてほしいです』ってね。
 私は、嬉しかった。塾をやっててこれだけ嬉しい褒め言葉はない。
 でも、沢崎先生には、図に乗るから言わないでおきました。
 沢崎さん、あの子は、あなたの指導で変わったんです。入塾のゴール達成したんです。
 すると今度は、高校受験だ。
 彼女は悩んだ。
 御三家に行ける成績は残した。
 でも、果たしてそこへ通うことが良いことなのかとね。
 もし入学したら、同じ学力の生徒たちに囲まれる。
 自分が自分でいられなくなるかもしれない。
 だったら、余裕もあり環境もよい霞ヶ丘に通って、部活もやり、勉強もやり、指定校推薦で大学へ進学しよう!
 そう考えたんです。
 この前、沢崎先生は授業で指定校推薦の話をしていましたよね。
 進学校へ進まなくても、きちんと勉強方法を身に付ければ、有名大学に行ける。だから、教わるな。勉強方法を身につけろ、ガンバレって。
 隣の教室から聞こえてましたよ」

 何も言い返すことができなかった。
 確かに指定校推薦の話はした。
 彩子は目を輝かせて聴いていた。
 あの目の輝きはそういうことだったのか!

 ちゃんと俺の言うように、日々ガンバってきたんだ。

「沢崎先生だって、気づいてるでしょ」
 不意に塾長がささやいた。
 はい、塾長、おっしゃるとおりでございます。。。

 誰かが、「麻雀にでも行きますか?!」
「いいですねえ! 今日は負けませんよ」
「じゃ、沢崎さんもいないと四人にならないから、いいっすね?」
「臨むところだあ」

 雀卓のガラガラいう音に、
「私の気持ちなんか全然わかってないじゃない」と言う彩子の台詞が、不協和音のように紛れてきた。

 女子って、やっぱ、わかんねえ。
 だけど、これだけは誓う。
 彩子の幸せのために俺は何でもする。

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