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虫食い穴のあるコーヒー生豆を解剖すると...

虫食い豆を解剖してみよう!

約1mmの黒い粒

ハンドピック中に集めた「穴が空いた豆」、一緒に働いている彼女が「開けてみよう!」と言うので、早速中身を解剖してみました。


ここに2つのお豆があります。


1つ目は何もなく…

2つ目を開けると、



全長1mmちょっとの小さな黒い粒が現れました。

ただただ小さい謎の粒に思えたのですが、顔を近づけてよくよく見てみると細い毛がたくさん生えておりました。
ただ肉眼ではそれ以上わからないので、撮影して拡大してみると…

艶のある黒い粒
より鮮明な画像 頭部と腹部のようなものが確認できます。
仰向けの状態 足が見えます

Coffee Berry Borer/Hypothenemus hampei

コーヒーのチェリー、ひいては胚乳の中にまで入り込む虫といえば…コーヒーハンター川島氏に教えていただいた「Coffee: Growing, Processing, Sustainable Production A Guidebook for Growers, Processors, Traders, and researchers」で見たことがあるぞ!と思い再度ページを捲りました。

直接珈琲チェリーの中に侵入する虫を通称「Coffee Berry Borer(以下CBB)」と呼びます。正式な名前はHypothenemus hampei(Ferrari, 1867)で、Coleoptera:Scolytidae(鞘翅目:キクイムシ科)に分類されます。

Hypothenemus hampei (Ferrari, 1867) observed in Mexico by J. Refugio Lomeli Flores (licensed under http://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/)


Hypothenemus hampeiは、アフリカ原生の生き物で特に標高が低い時に見られます。
体長はメスが2.5mmに対しオスは1.5mmほど。

卵をベリーの内部に産み付け、幼虫が豆の繊維を食べて外に出てきます。
(卵の数は最大で20個ほどまで産み付けられるそうです。)


Hypothenemus hampei (Ferrari, 1867) observed in Colombia by Bioexploradores Farallones (licensed under http://creativecommons.org/licenses/by-nc/4.0/)


この虫食いは特に豆の水分値が13%を超える場合に起こりやすいそうです。水洗後において、水分値が低い時は外部からの侵入に耐性があるそうですが、乾燥工程が長引いた場合や周囲の環境が多湿の場合はこの耐性が下がります。

(雨が降ったりすると乾燥が長引き、周囲も多湿になったりするのでしょうか。)

現地に行くことは出来ないので、ハンドピックをする時に、生豆が辿ってきたであろう状況を想像する一つの手がかりになったらいいなと思います。

乾燥方法

精製方法に着目されることも多く、コーヒー業界もそこに力点を置くことが多いですが、精製方法のほかに乾燥方法も重要なポイントだと思います。

機械乾燥、樹上乾燥(dry-on-tree)、天日乾燥(コンクリート上orラックの上、ラックの何段目か、ラックの上にどのような天蓋があるか etc…)、乾燥中の攪拌の状況や乾燥にかかった時間など…

CBBのライフスパンは25-35日、樹上にチェリーがある時にこの虫がチェリーに入り込んで食べていくうちに未完熟状態で落果します。


収穫後の観点から見ると、摘み取った後に内部に入り込む・入り込んでいたことが分かることもあると思います。機械乾燥や湿式の場合はCBB含めた虫の繁殖に耐性があるようですが、天日乾燥(それも特に比較的標高の低いCBBが生息するような場所)であれば繁殖可能性も高まるのかな…想像が広がりますね。いつか現地に観に行きたいです…



参考文献

Jean Nicolas Wintgens, T.J.Grove et al., WILEY-VCH. Coffee: Growing, Processing, Sustainable Production A Guidebook for Growers, Processors, Traders, and researchers (Second Revised Edition). p.443-444, 460

Hypothenemus hampei (Ferrari, 1867) in GBIF Secretariat. GBIF Backbone Taxonomy. Checklist dataset https://doi.org/10.15468/39omei accessed via GBIF.org on 2023-10-06.

旦部幸博(2019年第13刷). 講談社. コーヒーの科学 

農研機構 農業環境変動研究センター. 昆虫標本館所蔵タイプ標本. 2023年10月06日参照


種と受粉の小話

コーヒーの場合、
Coffea arabicaが「Coffea属arabica種(いわゆるアラビカ種の珈琲豆)」
Coffea canephoraやCoffea eugenoidesなどがあり、種のバリエーションは125種あると言われております。

染色体数はアラビカ種が44本なのに対し、その他は22本。四倍体化したことにより、アラビカになりました。

基本的に他家受粉(自家不和合性)の風媒花ですが、この四倍体化する過程でアラビカ種は他家受粉性に加えて自家受粉も行うようになったと考えられています。

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