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毎日400字小説「運命」

 そのころ昭三は、朝晩、近所に住む祖父のところに食事を届ける役目を負っていた。体が大きく無口な祖父は、五歳の昭三には恐ろしく、行くのが嫌だった。友達との遊びを切り上げなければいけないことも不満だった。たまにもらえるお菓子だけが、目当てだった。
 ある朝、昭三は友達と遠くの川遊びに行くため、母に呼びつけられる前に家を抜け出した。前日に行ってはダメと言われたけれど、どうしても行きたかった。代わりに祖父のところに使いにいかされたのは、一つ年上のアキちゃんだった。当時、アキちゃんは居候をしていた。アキちゃんさえいなければ、ご飯が一杯食べれるのにと、思っていたものだ。
 アキちゃんが祖父の家に到着した時、爆弾が落っこちてアキちゃんは死亡した。昭和二十年の夏。昭三は以後、自分の代わりにアキちゃんが死んだのだと思って生きてきた。そして、自分のほうが生きた理由はなんだったのか。夏の白い陽を見るたび、思うのだった。

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