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毎日400字小説「人生」

「今年の正月に会ったんですよね。なんか内装? の仕事してて、家買うとき言うてなーとか言うから、そんな予定ないわって言って」
    金髪頭の女が、モザイクを通して得意げにしゃべっている。「気の優しい子でしたよ。運ばされてたプリントの束、代わりに持ってくれたり」だから信じられない、と彼女が言うのは、昨日強盗致傷の疑いで逮捕された畑中卓についてである。中学の時の畑中は大人しくて、はっきり言うといじめられていた。いわゆる高校デビューで、卒業後会ったら、顔つきが変わり、いかついタトゥーを入れていた。彼女は二十一歳になっても中学の時の力関係のままで、畑中をあしらった。モザイクの向こうの彼女はじつはそのことを、自慢したいのである。なんの得になるのかわからないけれど、元同級生の逮捕は非日常で、界隈は湧き立った。テレビのインタビューに出たことは彼女の勲章で、この先何年も自慢する。それぐらい、人生はつまらないものだった。

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