毎日400字小説「キャンプの思い出」
小学生のころ、父の会社の社内イベントである一泊二日のキャンプに毎年参加していた。家族連れの社員が大勢参加していて、低学年の頃は、年が同じぐらいの子供たちとすぐに仲良くなり、無邪気に遊んでいたが、だんだんと年が上がると、なんとなく気取って話し掛けづらくなった。それで、父にくっついて、食材を班ごとにわけるだとか、キャンプファイヤーの木を組むだとかの仕事の手伝いをした。母は母で、奥さん同士の交流に勤しんでいた。わたしとはちがって、母はそういうのが得意なのだ。父は若い社員の人たちを従え、指示を出していた。「課長の娘さん?」と、彼らは言って、「似てなくてよかったですね」などと父をからかったりした。中に若い女の人がいた。わたしの切った野菜をほめてくれ、髪を結んでくれた。「また来年もおいでよ」と言って別れた彼女は、来年は来なかった。父と不倫関係にあり、それを苦に自殺したのだと知ったのは、ずっとあとのことだった。