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毎日400字小説「あのころ出会った彼女のこと」

 彼女と会ったのはデリヘルの待機所だった。そこにいるってことは指名が入ってないってこと。一緒にいる子たちはみんなライバルだから親しく話をしたり、まして一緒に帰ったりなんてことは普通はしない。「いっつも本読んでるね」と私が彼女に話し掛けたのは、彼女とはあまりにもよく一緒になった、つまり二人とも容姿が残念でお客が少なかったからで、それを気に病んでいた私は常に泰然と読書に耽っている彼女が気になっていた。本の話をするようになってプライベートも打ち明けるようになり、彼女が父親の借金のためにここにいることを知った。「でも、思ったより稼げないもんなんだな。ついてるもんは一緒なのに」そんなことをあっけらかんと言う子だった。その時付き合っていた彼氏に稼ぎが悪いと殴られていた当時の私は、そんな彼女に救われた。会わなくなってもう十年が経つ。今も育児に疲れた時、男に暴力を振るわれた時、彼女のことをときどき思い出している。

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