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dai5599
毎日400字小説「カレーライス」
夜、母さんは缶ビールを開けた。おめでとうと言って、麦茶を注いだ私のグラスと合わせる。にこにこしながら見つめてくるので、私は恥ずかしくなって、「なに」と、ちょっとぶっきらぼうに言った。「いいじゃん、見せてよ」母さんはビールに口をつけ、にやにやしている。「大学生だって。大きくなったねぇ」
母さんは私が明日入学するのよりずっと難しい国立大学を卒業していた。私を生む前は研究職についていたという。そのため私には、母さんの人生を奪ってしまったような思いがずっとあった。大学に行かせてもらうのに、私は将来についても、そのため何をするべきかについても、ぼんやりとして覚束なかった。
「母さんの学生時代って、どうだったの?」「モテたよねぇ」私はじゃがいもの煮崩れたカレーを混ぜながら、明日からは帰って来ても母さんのご飯がないのだな、と思った。思ってから急に恥ずかしくなって、ばれないように、皿に口をつけてカレーを掻き込んだ。