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毎日400字小説「告白」

「地下鉄の乗り換えでいつもすれ違う人なんだけど」思い切って声を掛けたい、ついてきてと、知佳に押し切られ、早起きしていつもとは違う地下鉄に乗り込んだ私はぶーたれていた。すれ違うだけで好きになるとはこれ如何に。「見ただけで違うってわかるから」そう答える知佳の顔は恋する人のそれで、これは岡田将生クラスじゃなきゃ割に合わんと憤慨していたら、「あっ、いた」伸び上がって、往来する人の波に目をやっていた知佳が言ったので見ると、それは達磨だった。
「行ってくる」知佳は私の手をぎゅっと握ると、意を決して、その大きな達磨に近づいてゆく。達磨には手足がついており、前の人に続いて歩いているのだが、腹回りは普通の人の五倍ほどはある。が、誰も、達磨が歩いていることに注視している様子はないのだ。どういうこと? 混乱している間に話はついたらしい。私を呼ぶ知佳の顔は赤く染まっていたが、達磨にはとうてい敵わなかった。

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