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毎日400字小説「女」

 祖父が昔演歌歌手のお弟子さんをやっていて、いとこには若者に人気のボーカルグループのメンバーがいる。叔父の一人は昔お笑いコンビを組んで、少しだけテレビに出ていた。わりと芸能界は近いところにあって、十八歳から十年、モデル事務所に所属していたことが、今、工場のパートで働く玉城あすかの矜持だ。夫との長年セックスレスから女としての自信を失いかけていた彼女は、パート先の上司に恋をし、告白をすることでプライド保とうとする。自分に好かれて嫌な男はいない。男は困った様子を見せるが、メールの返信からは、まんざらでもない様子が見て取れる。大胆な言動に出る彼女は、子どもを二人産んだ四十四の女であるということを忘れている。とっくに壊れていた夫婦関係など、なんの歯止めになろうか。二人きりで会えない恋愛の切なさにのめりこむ彼女は、中二の娘が、全裸画像をネットに晒され、恐怖と絶望の中にいることに気づいてやれるはずはなかった。

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