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毎日400字小説「チャンス」

「こうするしかなかったんだ」「でもバレたらどうしよう」そう言っていられたときは幸せだった。不安で震える手をぎゅっと握ってもらえると、怖いことなんか一つも起らないような気がした。彼の体にしがみつき、彼の養分を吸った。充電ガ完了シマシタ。ロボットのような声で言って、笑い合った。わたしは自由だった。彼との間を執拗に勘繰り、嫉妬から家に閉じ込めようとした夫はもういない。彼とわたしで殺したのだ。わたしたちの燃え上がる気持ちは、誰にも止められない。
 そんな、火曜サスペンス劇場みたいな盛り上がりが長く続くわけもなく、今、わたしの気持ちは彼にはなかった。夜遅く、足音を忍ばせて帰って来たわたしを、彼はしつこく追及する。「こんな時間まで、誰といたんだよ」無理矢理体を開かせ、屈服させる。そして、脅迫する。「お前が殺したんだ。全部バラしてやる」来た。火サスチャンス。わたしは、ぞくぞくとした快感に、笑いを噛み殺した。

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