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taonbo
毎日400字小説「火遊び」
「ほんまに寝るだけですよ。手出したら噛みますよ」終電がなくなったと後輩が言うので、うちすぐそこだよと言うと、見たい見たいと言ってついてきた。明るくあけっぴろげの性格の彼女とはふだんから軽口を叩く仲で、うっすらとした好意はお互い感じていたものの、そういう関係になりたいと思ったことはなかったし、今日誘ったのも困っていたのを助けてやるつもりで、手を出そうという気はさらさらなかった。だけどかなり酒が進んでいたのもあるのか、部屋に入ったら急に意識してしまい、よろけた彼女の体を受け止め肌が触れたことによって、いっそう変な空気になった。やってしまったら明日から気まずいぞ。頭のどこかでストップがかかった。が、私に二の腕をつかまれたまま、彼女は動こうとしない。むしろ体重をかけてくる。手はじっとりと汗ばんでくる。まずいなと思ったところで電話が鳴った。親友の彼女だ。親友が自殺した。彼女の取り乱した声に、私は救われた。