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毎日400字小説「筒」

    夜道を歩いていた。車は少なく、手には丸い筒を持っていた。ちょうど、卒業証書入れぐらいのサイズだ。と思ったら、中にはやはり卒業証書が入っていた。牧野輝文さん。私は未来のある十八歳の卒業証書を、道で拾った。酔っていた。置いて来ればいいのに、なぜか持って来てしまった。交番に届けるのが邪魔くさくなったのだが、元の位置から離れてしまったら、その辺に放置するわけにはいかなくなった。明日、仕事に行くときに交番に届けよう。そう思いながら、筒を持っていたらどうしてもやってしまうように、片手で弄んだり、手の中でくるくる回したりした。案の定、手を滑らせ、さらに落としたところを、足で蹴っ飛ばしてしまった。まずいまずい。ころころと転がっていく筒を追いかける。筒は歩道の段差を越えて、車道にはみ出していく。車に轢かれたら申し訳ないと思い、ジャンプしたところで、道を曲がった車が突っ込んできた。私は死んだ。筒は無事だった。

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