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noouchi
毎日400字小説「言い訳」
「十歳の時かな。四つ下の妹が死んだんだ」
そんな話をいきなりし出した健を、あたしは信じられない思いで見つめた。というのも、スマホの通知に女の名前が出たのを偶然見つけ、問い詰めたところ昨夜の浮気が発覚、マジ信じらんないキモい別れる触んないでと泣き騒いだ後のことだったので、欲しいのはごめんとか大事なのは真由だよとか、そういう類の言葉だったのに、「それで母親が精神を病んでさ」とか続くのが、わけわかんなかった。何語ってんだよって話。健によると、母親はそれで万引きなどの軽微な犯罪を繰り返し、自分は犯罪者の子供として田舎で白い目を向けられて育ったらしい。父も仕事を失い、兄はグレてヤクザの道へ、だから自分だけが幸せになることに罪悪感を覚えるのだそうだ。
「真由と結婚して幸せになっていいのかなって」それで、浮気をした。そんな話信じるかよって思ってたのに、あたしは不覚にも号泣していた。いいんだよ健、幸せになろうって。