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chi_bit_
毎日400字小説「シケモク」
段ボールを敷き、ビニールシートで覆った下で、寅三は腹を庇うように体を丸めていた。額には尋常じゃないほどの脂汗が滲み、手足に力は入らなかった。ぎりぎりと食いしばった歯の横から、間断なく呻き声が洩れ出ている。晩飯に食った弁当がまずかった。うっすら靄がかかる頭で、寅三は考える。普通の腹痛じゃない。さっきから、頻繁に起き上がって便所に駆け込んでいた。もう出るものはなく、しかし腹の痛みは消えない。毒でも盛りやがったか。いつも漁るコンビニ裏のゴミ捨て場で、見たことのない弁当があった。怪しいと思ったが、味噌カツにつられた。寅三は、名古屋の出である。死にたくない。が、最後の晩餐に故郷の物が食えたと思えばいいか。途切れていく意識の中、寅三は思う。
朝の光で目が覚めた。ゆっくりと体を起こした寅三は、痛みが消えているのに気づいた。命拾いした。拾ってきたシケモクを吸いながら、思った。したところで、とも、思った。