毎日400字小説「おとこのいいぶん」
「子供が出来たの」と言われ、吉川明憲は動揺した。「まさか、だって」彼女とするときは特に気を遣い、必ず避妊具をつけていた。百パーセントではないとはいえ失敗した覚えもない。「まさかって何」しかし女の顔は強張り、明憲を見る目に敵意が篭った。失言に気づいたが、しかしどうしても受け入れられない。「俺の子か?」「決まってるじゃない」「いやしかし」「しかしって何。他の男ともやってるって言いたいわけ?」言いたい! と、胸の中で明憲は叫ぶが今ここでは許されないだろう。胎児のDNA鑑定の話を持ち出してもいいが彼女が交際を妻にぶちまけないとも限らない。妊娠するようなヘマはしたつもりはないが行為をしたのは事実だ。こんな女とは思わなかった。控えめで、多少田舎くさくはあったがそれゆえどこへ連れて行っても感激した。男としてのプライドを満足させてくれた。ずっと大事にするつもりだったのに。認知を迫られた明憲は、女の首に手を掛けていた。