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毎日400字小説「なんかちがう」

 何か違う、と、アプリで知り合いこの度三度目のデートでイタリアンレストランに来た相手、浩次に微笑みを返しながら鳩子は思う。顔も悪くないしスタイルもそこそこ、着ているもののセンスも悪くない。話題だって豊富だ。鳩子が面白かった映画の話をすると、その監督ならと他の作品を挙げてくれて飽きない。職場の人間関係のことをつい愚痴ってしまったときも、嫌な顔をせずに聞いてくれた。しかも年収は二十九歳で六百万円あるのだから優良物件としか言いようがないのだけれど、なんでか全くときめかないのだ。でも待って、結婚は恋愛とは違う、条件でするもの。そう思ってデートを重ねてきたわけだが、どうしても、この人の隣で寝たり、朝ごはんを食べたりということが想像できない。昔、好きで好きで結婚したかったのに振られてしまった彼と比べてしまう。「今からうちで見ない?」店を出、映画を理由に家に誘ってきたのを断ったのはそういう理由だ。次はなかった。

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