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毎日400字小説「ちーちゃん」

 居酒屋の個室に現れたそいつを見たとき、裏切られたと俺は思った。だけどそれは俺の勝手な思い込みだった。結婚を前に、かねがね気になっていた幼馴染に会いたいと言ったのは俺だ。「ほんとに? いいの?」思えばそう言った時の美紀の反応は、ちょっとおかしかった。「理解ある人と結婚できるなんて幸せ」幼馴染と会うぐらいで? わざわざ席を設けたのは、急な海外出張で結婚式には来られなくなったから。美紀の大事な人には会っておきたい。でもまさか、ちーちゃんちーちゃんとことあるごとに名前を聞いていたその幼馴染が男だったなんて。「めっちゃいい人じゃん」美紀の渡したおしぼりで手を拭きながら、美紀の肩を小突いているちーちゃんこと千紘氏を前に俺は混乱する。去年二人で温泉旅行に行ってなかったか。なんで俺のほうが一人? でもそんなことを言ったら心が狭いと思われる?「いい人だよー」にやけ顔で返している美紀に、俺は何も言うことが出来なかった。

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