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毎日400字小説「冬」

 暖かい店の中から外を見ていた。大寒波がやって来たと、連日北海道の町がニュースに取り上げられていて、雪の降らないこの町でも、行き交う人たちはみな厚着をし、前屈みになって、身を縮めていた。私もここへ来るため何枚も服を重ね、分厚い靴下を履き、毛糸の帽子を被った。仕上げに、三年前に思い切って買った英国製のダッフルコートを羽織った。木製のトグルボタンを、きっちりと嵌めて。お腹と背中に、カイロも貼った。私の心は堪えられないほどの寒さに震えていた。
 外に出たほうがいいわよ。あなたが亡くなって引きこもっていた私に、友人たちは言った。もう半年じゃない。私は一人の部屋で、初めての冬をどうにも越せそうになかった。寒さで死んでしまう。それで部屋を出た。
 コーヒーが運ばれてきた。「ありがとう」私は言って、コートを脱ぎ、帽子を取る。窓の外には寒そうな人が行き来していた。私はカップを両手で包んで、ずっとそれを見ていた。

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