28 隙間
その掛け布団は、ぴったりと閉ざされていた。
質のいい羽毛布団は四つにたたんでもふくらむばかりで、折り目らしきものは見えない。
飼い主はそっと、その隙間に手を差し入れた。途端に、眠りを邪魔された反撃とばかりに、渾身の猫パンチが隙間から飛んできた。
ちょっかいを出した飼い主の、からかいぎみの笑い声が響く。
その掛け布団は、ぴったりと閉ざされていた。
飼い主はそっと布団の隙間をうかがう。猫は息をしていたが、目を開けることはなかった。乾いた毛並みが、ゆっくりと上下に動いている。
「大好きだよ」
遺言のように、その声は何度も隙間に降りそそぐ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?