第7回BBC読書会 芦花公園『異端の祝祭』
2024年8月24日(土)第7回目となるBBC読書会を開催しました。
課題本は芦花公園『異端の祝祭』です。久しぶりに小説、しかもホラーを扱いました。
参加者は店主含め6名。
あらすじ…
就職活動中の島本笑美はある日、面接を受けに行った会社「モリヤ食品」で倒れてしまう。しかしそこで出会ったヤンという人物に介抱され、しかも妙に気に入られてしまう。倒れたにもかかわらず採用され、初日の仕事に向かうと、そこで奇妙な儀式を目の当たりにすることになる。
笑美の心配をした兄は心霊案件を請け負う佐々木事務所を訪れるが…。
(以下ネタバレを多く含む内容となります)
全体通した感想
通読したみなさんから聞かれた全体を通しての感想は以下のようなものでした。
「ホラーをはじめて読んだがこの本を読んで楽しみ方がわかった」「最後までするするいけた。グロさがない。ある種の上品さがあって読みやすい」「芦花公園作品は初体験だったが怖くて眠れなくなった」「人物の正体、現象の正体が明かされていく感じが謎とき的でおもしろい」「怖すぎたらどうしようと思っていたけどほどよくエンタメ性があって怖いより面白い、好奇心の気持ちが大きく読んでいて楽しかった」「罰当たりだと思った」
暗示について
作中には人物を含めいろんな暗示と思われるものが登場しますがそれらについても話しました。
まず、それぞれの章タイトルについて。これは司会者さんが予め調べて来てくれていました。
べやと…聖者 (ヤンのことを指している?また、ベイトで釣り針という意味もあり釣り針にかかった笑美を描写する章であるとわかる)
ぱしおん…信仰、情熱
おらしょ…祈り
てんたさん…悪
ばうちずも…洗礼
なたる…生まれ出る、出生
それぞれラテン語でキリスト教に関する用語だとわかります。
また、宗教的なメタファーという意味ではちょうど店主が同じタイミングで諏訪信仰に関する本『諏訪の神さまに会いに行く』(北沢房子)を読んでいたのでこの本で得た知見を紹介しました。
諏訪信仰というのはもともと土地にあったミシャグジ信仰に重なって発展していったもの。モリヤ食品がヤンに支配され、ミシャグジを祀る霊能者石神(ミシャグジは石を御神体とした説がある)が勝てずに取り込まれた構図はそのことをあらわしているのかなと思いました。
さらに、もう一人登場する霊能者、物部は土佐にいることからいざなぎ流の陰陽師を暗示しているということも話ししました(いざなぎ流は土佐物部村に伝わる独自発展した陰陽道)。
キャラクターについて
続いて、それぞれのキャラクターについても話しました。共感できるかどうかについて話すと、笑美の自信のなさに共感できるという声がきかれました。
一方で自分がなくてカルト的なものにすがりついてしまうタイプの人間という評価もありました。
そんな笑美もラストではある種救われていてすがすがしさを感じると言う人もいました。
ラスボス的なヤンについては、舞台装置のようなキャラクター、出てきた瞬間に現実味がなくてここから漫画、架空の世界に入りますという合図のように思えたという感想でした。
しかし読み進めるうちにヤンの正体もわかっていき、最後のほうではいろんな事物に聖書の言葉当てはめたりオリジナルの教典作ったりと中二病感満載なキャラクターという評価になりました。
青山が意外と闇を抱えているという話題も出ました。
ワトソン役で人畜無害なようでいて人を救うことに極端にこだわっている、メサイアコンプレックスの持ち主という意見がありました。
そんな青山をなんだかんだ頼りにしている、るみについても印象的だったという声が上がりました。
るみ自身、女性でありながら汚いスエットを着ているのは魔は美しいものにつけ入るということを知っているからであり、翻って美醜に拘りがあるのでは、だからこそ青山を大事にしているという意見でした。
青山がるみを信奉しているのと同じく、るみも青山にすがっている部分はあるのではという解釈が聞かれました。
印象に残った場面
印象に残った場面についても意見を交わしました。
冒頭12ページの描写が印象に残ったという意見が二人から聞かれました。また、るみの異形の祭壇が印象に残ったという人が同じく二人いました。
不思議と印象に残った場面は共通したようです。
このあたりで怖さについての話しにもなり、「他人と自分の認識にギャップがあると苦しむ理由になる」「自分が見ているものと他人が見ているものが違うとわかった時に恐怖になる」「自分が美しいと思って作ったものが人からみると醜いものに思われること」など、それぞれの場面からどこか通じるような印象をみなさんこの作品から受け取ったのだなと感じました。
読書会についての感想
最後は読書会を通しての感想について話しました。
「みなさんが深く読んでいていろんなところを味わいつくせた」「司会者さんが素晴らしいファシリテーションだった。読書会も進め方が人によって違うのということがわかっておもしろかった」「読書会自体参加するのがはじめてだったが、自分の好きな作品だったということもあり楽しめた」「色んな読書会に参加しているが、内容を振り返る読書会はじめてだった。細かいところまで振り返ったことで忘れたところもクリアに思い出せた」「普段はネットで感想を書いていて人と本の感想を話すことがない。人の感想を聞きながら振り返ってより読み込みが深まった」
初参加の方もいらっしゃいましたが、みなさんが読書会を楽しんでいただけたようでよかったです!
次回予告
次の読書会についても決定しました。
課題本:『社会人大学人見知り学部卒業見込』(若林正恭)
日時:10/19(土)19時〜 ※次回から開始時間が変わります
定員:7名
場所:ゆとぴやぶっくす
定員がすぐに埋まってしまうので参加希望者はお早めにご連絡ください。また、課題本は当店経由でご購入可能です。取り置き希望の場合にはご連絡ください。
※今回の課題本も中途半端なタイミングでたくさん届いてしまったので(角川システムエラーの影響…泣)、この記事を読んで興味を持った人、参加できなかったけど読んでみたいという人はぜひ当店でお買い求めください。
次回の読書会への参加お申し込みは下記ページから
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