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第11回BBC読書会 『やさしい猫』中島京子

1月11日(土)、2025年最初のBBC読書会を開催しました。
新年最初ということで自己紹介トークの中で去年読んだ本と今年読みたい本についても話しつつ、本編に入っていきました。

全体通しての感想

最初にあらすじを確認し、その後全体通してのざっくりした感想を一人ずつ喋っていきました。

シングルマザーのミユキさんが心ひかれたのは八歳年下の自動車整備士クマさん。娘のマヤもクマさんに懐き、すったもんだはありつつも平穏な日々が続いていたのだが……
幸せが突然奪われたのは、彼がスリランカ出身の外国人だったから。引き裂かれた三人はやがて、国を相手どった戦いに挑むことになり──

『やさしい猫』カバー裏あらすじより



「最初は外国人との恋愛物語かと思って読み始めたがだんだんシリアスな展開になっていくのが意外だった」「こうあるべきだと押し付けてくるわけじゃなくてストーリーからメッセージが浮き彫りにされると感じた」「章立てが細かいと思ったのが最初の印象。読みながら緻密に計算されていると感じた」「テーマがたくさん詰め込まれている」「タイトルといい、あらすじといい、自分のアンテナに引っかからない類の本。普段だったら絶対に手に取らないが、読書会を通じてこの本に出会えてよかった」「十代の女の子の視点で書かれているので読みやすく児童文学のようなキャッチーさがある」「なんとなくでしか見聞きしていなかった入管のことが物語になっていることでよく理解できた」「ミユキさんの柔軟さに感心した」「上原さん(もともと入管の職員で物語の途中から入管をやめる)の存在がこの物語をフラットにしている」などの意見が出ました。

また、前々回の読書会で扱った『百年の孤独』(ガルシア・マルケス)を読んだあとだったので「巨人の星の養成ギプスをはずしたかのように本が読めるようになっていた」という発言があり、ウケました。店主の世代で言うならドラゴンボールですね。

ドラゴンボール、重りつけて修行しがち

在留外国人の問題について

この作品を語る上で避けては通れない、日本で暮らす外国人の問題について時間を割いて話しました。

「普段接することがないのでどう接していいかわからない。入管や外国人の問題があることがわかったがどうやったら変えていけるのか」という話題が中心となりました。

建築系のお仕事をしていて川口にお住まいの方は仕事柄海外から来た職人と関わることが多いという話をしてくれました。「20年くらい前から海外から来た人が当たり前のようにいる。同じものを一緒に作るという仕事をしているから一体感があり、仲間という意識。5〜6年くらい前はコンビニ前でクルド人が仕事終わりに集まってお酒飲んでいる光景もよく見たが最近は見なくなった」というお話しなどご自身が見聞きした体験をいろいろお話してくれました。

「東京クルド」「マイスモールランド」という映画が在日クルド人について理解を深めるのに役立ったという話しや南浦和のお隣、蕨にある(住所は川口市、最寄り駅は蕨駅)ココシバというブックカフェではクルド人コミュニティについて理解を深めるイベントが開催されているという話しも出ました。

また、自宅の近所にフィリピン人の寮ができる時に近所の人が反対したりちょっとした騒ぎになったことがあるという話しをしてくれた人もいました。
できた当初は話し声が大きかったりスパイスのニオイが気になったりなどで近所の人の噂話の対象になったりしたそうですが、だんだんそれも落ち着いて最近では挨拶を交わすこともあるそうです。
それを受けて「挨拶をするのは些細なことだけど誰でもできる方法の一つで他者理解につながりそうだ」という意見が出ました。

入管の問題

この小説の後半で描かれる入管での出来事についても話題にのぼりました。
参加者の一人が入管の前身が特高警察(※)だということを教えてくれて戦時中のように人の足を引っ張るような意地悪さに心を痛めましたが、人間の倫理観は絶対的なものではなく組織や環境によって変わるもので誰もがそうなる可能性があるとしんみり確認し合いました。
また、全体の感想でも出た「上原さん」という元入管職員のキャラクターが描かれることによって入管にも事情があり、誰もが完全な悪人ではなく言われた仕事を果たしているだけ、ということにも思いを馳せました。

※会話の中でこのような表現をされていましたが、正しくは…戦前、入管業務は内務省が管轄した警察行政の一環として行われ、戦後に引き継がれた、ということのようです。
戦前の入国管理は、警察や特高警察を管轄する内務省が所管しており、警察行政の一環として入国管理業務が行われた。戦後、特高警察をはじめ内務省職員は、多くが公職追放にならず、戦後も引き続き雇用されたため、公安的発想、戦前の感覚で入国管理業務が行われた…ということらしいです。

物語のクライマックスにかけて

導入が牧歌的な恋愛話ではじまることが余計に後半のシリアスな展開を引き立て、お話しとしてよく出来ているという意見で一致したこの作品。
印象的だった場面もいくつか挙げられました。

仮放免になるクマさんを迎えに行く許可をもらいに職員室に行くと、担任の佃先生は困った顔をして、首藤が行かなくてもお母さんが行くんだろ、そんな欠席理由、聞いたことないからなあ、と言った。アホかよ佃。だから、当日は熱を出すことにした。

『やさしい猫』430ページより

この3行がこの小説を象徴しているような箇所だと思ったとのことでした。

また、裁判の場面で訴訟検事に「なぜ前の父親の名字を名乗っているのか」と問われたマヤが「どちらかを選ばなきゃいけませんか?」と応える場面が印象的だったという意見もありました。選択を強要されるこの社会の中で二者択一じゃなくてもいいと言っているのはこの作品が伝えたいメッセージのうちの一つであるようです。
そこから家族のいろんなかたちを肯定する物語としてはじめから描かれていたと改めて確認し合いました。

この作品の中では他にもジェンダーのことやシングルマザーの問題なども扱われていましたが深く触れる前に時間切れとなり、次回の予定について決めました。

小説を読む読書会はまた2ヶ月後です。
2025年3月22日(土)19時〜
課題本「黄色い家」(川上未映子)

来月の読書会はこちらです。
2025年2月22日(土)19時〜
課題本「みんなの民俗学」(島村恭則)

課題本を当店経由で購入することも可能です。予めご連絡ください。

BBC読書会についてよくある質問


読書会に参加してみたい……という人からよくある質問についてここで回答をまとめておきます。
Q.どんな人が参加しているの?
A.いろんな人が参加しています。年齢職業もバラバラです。男女比はだいたい半々くらい。同じ属性の人が集まるというよりはいろんな人が集まる会にしたいと思っています。共通点は「本が好き」「本を通じて人と交流したい」というところだと思います。

Q.話しをするのが苦手だけど参加しても大丈夫?
A.プレゼンや議論をする場ではないので上手に話しをしようと思わなくてOK!なんなら主催の店主は誰よりも口下手で人とコミュニケーションを取るのも苦手です…。でも本の話しや自分の好きなものについて話したり聞いたりするのは好きです。そんな人たちの集まりだと思います。話しが苦手なら見学だけでもOKです。話したくなったら話してもいいですし、みんなが話しているのを聞いているだけでもかまいません。

Q.読書会って頭がいい人が集まりそう
A.頭がいいかどうかは別として想像しているほど堅苦しい雰囲気ではありません!特に難しい単語や専門用語が飛び交ったりしているわけでもありません。立派な意見が言えないと恥ずかしいという雰囲気ではないと思います。おせんべいバリバリ食べながら話しています。飲み物はセルフサービスで自由な雰囲気です。

Q.課題本は買わないと参加できない?
A.図書館で借りてもOKです。電子書籍で読んでいるメンバーも多いです。当日は課題本が手元にあったほうが話しやすいです。


参加申し込みはこちらからどうぞ。

また、読書会延長戦の掲示板もあります。語り足りないという人、読んだけど参加できなかった人などはこちらから書き込みどうぞ。過去の課題本についての書き込みも歓迎です。
※有料メンバーシップ内掲示板となります

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