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小説『いいねの数だけ死体が増える』 #0プロローグ「いいねの予感」
主人公は,自称ルポライターの「私」。ある日,SNS上で“いいね”の数と連動するかのように世界各地で死亡事件が起きている,という噂を聞きつける。最初は荒唐無稽な都市伝説かと思われたが,投稿者自身が「次のいいねで私が死ぬ」とつぶやき,それが現実になった事件を目の当たりにしたことで,一気に信憑性を帯びる。
やがて主人公の前に,歯車だらけの身体を持つ「ゴーレム」が現れ,何かを訴えようとするが,言葉を発しない。さらに闇に溶けるような「影のフェニックス」が,死体の側に度々現れては闇へと消えていく。そして,物理法則をねじ曲げる謎めいた「量子サーカス」。それら異形の存在がどうも“いいね”と死体の増加と関わっているらしい。
調査を進める中で,時間そのものが歪んでいるような気配や,SNS世界の裏側にある“仮想オペラ”の存在を仄めかす手がかりが続々と見つかる。人々は面白半分で投稿にいいねを押し続け,そのたびに悲劇が生まれているのか? それとも,何者かが意図的に「いいね」を煽ることで,闇の儀式を進行させているのか?
すべての章を経て主人公が突き止めるのは,SNSと異世界的存在の“接合部”に仕組まれたある装置の秘密。そして,人間の欲望がSNSで加速し,いいねという“無数の歯車”が互いに噛み合っていくとき,どんな破滅的な結末が待っているのかが明かされる。最終的には“いいねの数=死体の数”という呪縛の真意と,量子レベルから引き起こされる世界崩壊の可能性が浮上し,主人公たちはその歯車を止めるために奔走する。
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プロローグ:いいねの予感
都市伝説めいた“いいね”連動型の死亡事件の噂
深夜、外の世界は静まり返り、街灯がまばらに道を照らしていた。私は手元だけが明るい暗い部屋で、いつものようにSNSをチェックしていた。特にこれといった目的もなく、仕事のメールを見返す合間にただ画面をスクロールしている。そこに流れてくるニュースは「芸能人の結婚報告」や「会社の不正発覚」など、ありふれた社会の断片で、それらは瞬間的に人々の関心を集めては、すぐに埋もれていく。そんな日常が嫌いではない。変化のない平穏――私を含め大多数の人々が欲しているのは、そういう“情報の消費”かもしれない。
しかし、その夜はいつもと違った。SNSのタイムラインを見ていると、妙なワードが目につく。「#いいねの呪い」「#SNS殺人」「#イイネの数だけ死体が増える」。どこか不吉な響きをもつそれらの言葉は、少し前からネットの片隅でささやかれていたらしい。最初は都市伝説じみた内容と受け流していたが、何度も似たハッシュタグを見かけるうちに、次第にただの冗談ではないかもしれないと感じ始める。
ある投稿者はこう警告していた。「無責任に“いいね”を押すな。あなたが押した‘いいね’が、どこかの誰かを殺すかもしれない」。ネット上に散見する陰謀論の類いだと思いたかったが、妙に具体的なケースを挙げている人もいた。たとえば誰かの投稿が瞬く間にバズって大量の“いいね”を集めた直後、投稿者の近親者が不可解な死を遂げたという話や、あるいは本人が筆を折るかのようにSNS上から姿を消したという噂。すべてが作り話のようにも思えるが、複数の人々が似通ったエピソードを断片的に語っていることがひっかかる。
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