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小説『仕事でやらかしたら逆にヒーロー扱いされた話』 #3「奇跡が試される時、そして真のヒーロー誕生へ」

第三部:奇跡が試される時、そして真のヒーロー誕生へ

――「ビッグ・プラン」の発足からしばらくして、ついに社外を巻き込んだ“大規模プロジェクト報告会”の開催が決定した。これまで社内の熱気だけでもかなりの盛り上がりを見せていたが、今度は取引先やメディアまで呼んで行う一大イベント。もちろんメインプレゼンターは俺、佐藤修二。
最初はただのミスだったものが、いつしか会社の大きな命運を握るプロジェクトへと変貌を遂げ、今や社外の視線まで浴びる状況に――。果たして“まぐれデータ”は最後まで“奇跡”であり続けるのか、それとも崩壊するのか? ここからは、予期せぬドラマの連鎖が待ち受ける。


1.プロジェクト報告会の幕が上がる

 会場は、都心にあるホテルの大ホールだった。普段の社内会議室とは雰囲気がまるで違う。ステージには大型スクリーンが設置され、スーツ姿の社員やパートナー企業の担当者、さらにはマスコミらしき人々までが席につき、開演を待っている。
 「おいおい、ここまで大掛かりになるなんて聞いてないぞ……」
 ステージ脇で待機しながら、俺は唇を噛む。プロジェクトメンバーが会社の紹介動画を流し、司会者が華やかにイベントを進行しているのを横目で見ながら、心臓の鼓動が鳴り止まない。
 「大丈夫だ。こんなところで逃げ出すわけにはいかない。俺はもう腹をくくるしかない」

 一方で、社長や役員たちは期待に満ちた表情を浮かべている。あの“ミスが生んだ奇跡のデータ”は、いつの間にか会社の成長戦略そのものを牽引する大看板となっていた。もしここで失敗すれば、会社のメンツは丸つぶれになる可能性さえある。
 「佐藤くん、頼むぞ。君のプレゼンで、このプランの素晴らしさをみんなに伝えてくれ」
 営業部長の熱い眼差しに、俺は小さくうなずくだけだった。


2.“完璧な”シミュレーションと“引っかかる”事実

 この報告会に向け、俺は徹底的にシミュレーションを洗い直し、足りない根拠を必死で肉付けしてきた。プロジェクトメンバーとの協力で試算を何度も組み替え、何とか「実現可能性が高い」と思わせられる数字に仕上げている。
 「はい、ここの売上予測は既存ラインの強化で十分に達成できますね。追加投資さえうまくいけば……」
 「製造コストは少し高めに見込んでおけば、安全性が確保できるでしょう」

 そうした地道な努力の甲斐あって、最初の“コピペミス”による根拠薄弱な部分も、だいぶしっかりと説明可能な形に作り替えられた。もっとも、本当に最初から狙っていたわけではない数字だから、限界はある。しかし、プロジェクトメンバーのモチベーションも合わさり、ある程度は“現実味のあるプラン”に近づけることができたのだ。

 ――だが、一人だけ、いや一人を中心とする“小さな疑惑”がいまだにくすぶり続けている。経理部の佐山さんだ。
 彼女は「やっぱりどこかおかしい」と感じていたらしく、特に予算面の二重計上や過剰な伸び率について詳細な再検証を迫っている様子。
 「佐藤くんのプランに飛躍があるのは事実だけど、これは最初から意図してできるような数字なの?」
 ――この報告会の当日も、事前に「細かい裏取りの説明をお願い」と執拗に詰め寄られた。
 「……と、とりあえず報告会が終わったら改めてお話ししますから」
 俺は逃げるように返事をし、足早に会場へ向かった。頭の隅では「もう誤魔化すのも限界かも」という思いが蠢いていた。


3.光あふれるステージと、胸騒ぎのプレゼン

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桑机友翔録

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