見出し画像

小説『仕事でやらかしたら逆にヒーロー扱いされた話』 #2「まぐれの英雄、プレゼンの舞台へ」



第二部:まぐれの英雄、プレゼンの舞台へ

――「月曜朝の悲劇」から一夜明け、俺は“超重要案件検討会議”のプレゼンターとして生まれて初めての大舞台に立つことになった。あくまで計算ミスによる“まぐれ”がスタートだったはずなのに、いつの間にか周囲は俺を“戦略分析の新星”みたいに持ち上げている。胸の内には不安が渦巻いていたが、いまさら「全部間違いでした」とは言い出せない雰囲気。ここから先、俺は大勢の前で“大胆な戦略”を語り、拍手喝采を受ける……のか? それとも、やっぱり地獄行きなのか?
第二部では、そこに至るまでの波乱と、まさかの展開が次々と俺を襲う。たった一度の“やらかし”が、さらなる“奇跡”を引き起こしてしまう顛末をご覧あれ。


1. 緊張の役員会、そして社長の期待

 俺が通された会議室は普段とは違う重厚な雰囲気に包まれていた。長い楕円形テーブルを取り囲むのは、社長、専務、常務、そして各部の部長陣。まるで軍事会議でも開かれているかのような緊張感だ。
 「これは……さすがにヤバい」
 膝が震える。普段の社内ミーティングとは次元が違う。しかも集まっているのは、会社の命運を握る“重鎮”たちばかり。元来のポジティブ思考も、ここまで来ると無力に近い。

 一番奥の席には社長が座っている。見るからに気合の入ったスーツ姿で、手元には俺が作った――否、“やらかしによって生まれた”提案資料がセットされている。それをパラパラと眺めながら、たまにニヤリと笑っている。
 「佐藤くん、待ってたよ。この前の会議は素晴らしかった。君の提出したデータは、私の経営判断に大きなインスピレーションを与えてくれたよ」
 社長の言葉に、俺はただ曖昧に笑ってごまかすしかない。なにしろ、あの“奇跡のデータ”は半分以上がミスによる産物なのだから。
 「さあ、早速プレゼンを始めてくれたまえ!」
 社長の一声で、役員会という戦場が幕を開けた。

ここから先は

4,445字

桑机友翔録

¥1,500 / 月

日々の気づきを綴るブログ

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?