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小説『いいねの数だけ死体が増える』 第二章:影のフェニックスは闇から生まれ、闇へ帰る
第二章:影のフェニックスは闇から生まれ、闇へ帰る
死体発見現場に残る巨大な黒い羽の痕跡
あの不穏なオペラが夜のSNSを震わせ始めた頃から、街の空気がどこか変わった――そんな噂が耳に入ったのはつい先日のことだった。
“闇のフェニックス”という得体の知れない存在を見た。──いくつかの投稿がそんな書き出しで始まっているのを、タイムラインでたびたび目にするようになったのだ。歯車ゴーレムの印象的な軋む音や、オペラの断片が与えてくる妖艶な熱狂とはまた別種の、漆黒の影が舞い降りるかのような寒気を孕んでいるという。それは闇から生まれ、闇へと帰っていく“フェニックス”――まるで真逆の存在を象徴するかのような、その呪わしい名前に、私は思わず背筋が粟立つと同時に、得も言われぬ好奇心をくすぐられた。
最初にこの“影のフェニックス”が目撃されたのは、市の中心部から少し離れた雑居ビルの屋上だったという。誰もいないはずの夜半、その場所には巨大な黒い羽が舞い落ちていた……という投稿を見かけたのが始まりだった。その投稿は、たった一晩で数千もの“いいね”を集め、瞬く間にバズったらしい。もっとも、翌日には削除されてしまい、元の投稿者は雲隠れしてしまったという。真偽は不明ながら、漂う陰気に背中を押されるかのごとく、私はどうしてもその現場に行ってみたい衝動を抑えられなかった。
やがて、より決定的な噂が耳に飛び込んでくる。ある死体が発見された現場で、やはり“黒い羽根”が散らばっていたというのだ。警察が事件性を疑って捜査に当たっているらしいが、羽毛の正体は未だに特定されておらず、ネット上では「影のフェニックスが飛び去った痕跡だ」と囁かれている。それだけならばただの怪談とも言えるが、どうにもその死体がまた“いいね”との関連を疑われているらしく、マスコミは騒ぎ立てるより前に“闇の匂い”を感じ取っているようだった。
その夜、私は冷たい夜風に身を包まれながら、かつて犯罪多発地帯と呼ばれた倉庫街の端へ向かった。ビルが建ち並ぶ中心部とは打って変わって、人通りの少ない広大な敷地が夜の月明かりを受け止めている。重い湿気が地面すれすれを漂い、まるで肌を舐めるようにまとわりつく。そのせいか、私は胸の奥深くで覚えるほんの少しの恐怖すら、どこか甘美な刺激として感じてしまう。
――今夜、この倉庫街の裏路地でとある“死体”が見つかったらしい。しかも、その近くには“巨大な黒い羽”が散らばっていたとか。
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