空気清浄機が僕にくれた小さな絶望
小さな絶望の話をしよう。
とても小さいので安心してほしい。至る所に大きな絶望が溢れる中で、こんなかわいらしいサイズ感の絶望があるものかと何だか安心したのだ。
部屋に空気清浄機がある。
Amazonでタイムセールをやっていたので何の気なしに買った、シャープ製のもの。
今時の家電は何でもインターネットに繋がりたがる。部屋の状態をお知らせしてくれる。
ペットを飼いたいなとぼんやり考えていて、だったら空気清浄機が部屋の温度を知らせてくれたら便利かもしれない、と。
しばらく前のことだ。未だにペットは飼っていない。
空気が綺麗か汚いかはわからない。気休め程度に稼働させている。
2月に入り、鼻がムズムズしてきた。
毎年花粉症めいた症状に襲われるものの、軽い風邪だ、軽い風邪だ俺は花粉症ではないと自分に言い聞かせて過ごしている。もう5年くらいはそんな調子だ。
今年もそんな時期か、早いものだなぁと思った。
部屋にある空気清浄機は、割と敏感に部屋の状態を検知してギアを上げる。
夏場などは、蚊がいなくなるスプレー的なものを撒くと猛烈な勢いで稼働する。空気が出てくる部分も赤く光り、
我は動いてるぞ、ほうら空気が澄んできたろう
とアピールしてくる。しばらくすると稼働音も大人しくなり、空気が出てくる部分の光が青くなる。空気が綺麗になったよ、という事のようだ。
めっきり部屋から出ない日々が続き、意図して毎日外に出るようにしている。近所の公園を散歩する程度だ。
気温も上がってきて、気分が良い。花粉症のような症状もさほど出なくなってきた。暖かくなったというのに不思議なものだ。
いつものように散歩に出て、部屋に戻ってきた。
空気清浄機は赤く光り、猛烈な勢いで空気を浄化し始める。
やはり外に出ると塵や埃、あるいは花粉が服に付着するのだろう。今日もよく働いている。
ふと空気清浄機のコントロール部を見ると、
お手入れ
というランプが点いている。
フィルターの状況を見ているのかタイマーが仕込まれているのかは定かではないが、定期的にフィルターの掃除を求める合図だ。
これはいけない。
今この部屋の空気は汚染されているのだ。フィルターを清掃するためとはいえ稼働は止められない。
ふおおおおおぉーーーん!!!!
そんな音を立てて稼働しているじゃないか。止められない。フィルターは外せないよ。
八方塞がりだと思った。
ティロリン♪
スマートフォンが何かを通知している。
部屋の湿度が40%以下になっています
目の前の空気清浄機が、インターネットを迂回して私に部屋の状況を教えてくれた。
ああもうだめだ空気は汚い空気清浄機のフィルターも汚れていてパフォーマンスは落ちている部屋の湿度に指摘が入った
絶望だ
春野菜の苦味にも似た小さな絶望に、どこか心地よさを覚えた。
今年は暖かくなりそうだ。