事業のネタ帳 #35 ユースケースから考えるWeb3事業機会(後編)
本記事は「事業のネタ帳 #25 ユースケースから考えるWeb3事業機会(前編)」の後編です。
前編記事を2022年8月に書いてから約半年が経過しましたが、11月に大手暗号資産取引所FTXと暗号資産レンディング大手BlockFi、2023年1月にDigital Currency Group子会社のGenesis Globalの度重なる破産申請により暗号資産市場の厳冬期が訪れています。
2023年に入り、BTCやETH価格は上昇傾向にありますが、暗号資産市場の春の到来を確信するにはまだ至っていません。OpenSeaの月間流通額、DeFiのTVL共に停滞が続いています。
前編では2022年のWeb3市場動向、Web3への懐疑的意見、現時点のユースケースについてまとめています。
今回の後編では、テクノロジーの歴史を振り返りつつ、Not BoringのPacky McCormickによる「Web3 Use Cases: The Future」を基にWeb3の未来のユースケースと事業機会について考えていきます。
人類とテクノロジーの歴史
「テクノロジー」と聞いて何をイメージをしますか。
パソコン、スマートフォン、インターネット。
AI、自動運転、ロボット、量子コンピュータ、デジタル・ツイン、3Dプリンター、バイオテクノロジー、メタバース、ブロックチェーンなどの最新テクノロジーを想起する人もいるでしょう。
Merriam-Websterの辞書では、"テクノロジー"は「特定の分野における知識の実用化」であり「知識の実用化によってもたらされる能力」と定義されています。また、“パソコンの父”として知られるAlan Kayは「Technology is anything that wasn't around when you were born(テクノロジーというのはあなたが生まれたときに存在しなかった全てのものだ)」という名言を残しています。
人類が初めてテクノロジーを生み出したのは打製石器が発明された250万年前の旧石器時代であり、人類の歴史はテクノロジーと切り離すことはできません。
約40万年前に出現し、約4万年前に絶滅した現生人類(ホモ・サピエンス)の近縁とされるネアンデルタール人の約80%は40歳以上生きられなかったとされています。
ホモ・サピエンスと同じくらい大きな脳を持ちながらも、ネアンデルタール人は石器の変化が少なく、ホモ・サピエンスほどの技術革新が起こせませんでした。その差を作ったのは集団の大きさです。
ネアンデルタール人は、家族単位の小集団で暮らしていたと考えられるのに対し、数々の道具を生み出したホモ・サピエンスは、血縁を越えて150人規模の大集団を築いていました。
ネアンデルタール人は、技術革新を起こすことができず、常時危険に晒される生活環境で、飢餓や病気などの生存リスクと対峙して生きねばならず、生涯を通じた学習をする時間はなく、子孫に学んだことを伝えることができませんでした。
人類は、「集団脳」により、石器、火、被服、言語、農業、家畜、鉄、ガラス、紙、石鹸、医療、芸術、人権、法律、金融、政治、帆船、蒸気機関、電気、自動車、電話、飛行機、半導体、原子力、テレビ、スマートフォン、ロケットなど数えればキリがないほど多くのテクノロジーを発明してきました。
そして、安全で快適な生活環境、安定的な食料獲得、衛生環境の改善と医療の発達、エネルギーの供給安定により、寿命を延ばす(現在の世界平均寿命は71歳、世界最高齢は122歳)と同時に物理的・精神的な豊さを獲得してきました。
『Wired』誌の創刊編集長Kevin Kelly氏のTED Talk「Technology's epic story」では、人類の最も素晴らしい発明は「Humanity(人間性)」であり、それにより人類は新しいテクノロジーを生み出し、自分たち自身の再発明を繰り返しているとしています。
また、Kevin氏は人間が新しいテクノロジーと出会った時の一般的な反応は「予防原則(テクノロジーが無害だと証明されるまで何もするなという反応)」ですが、より良い方法は、「前進原則(テクノロジーの価値を予測し、何度も評価検証し続け、期待する価値から逸脱した場合はリスクに優先順位をつけ、問題に対処し、ユースケースを変更する)」であると話します。
原子力を爆弾に使うことは悪いアイデアですが、3E(エネルギー安定供給、経済効率性、環境持続性)を実現するエネルギー源として発電に使うことができます。
合成農薬DDTの大量散布は野生生物へ悪影響を与える悪いアイデアですが、マラリアの感染対策として限定された使用量・範囲での利用は多くの人の命を救う良いアイデアです。
人類は「Humanity」により、新たなテクノロジーを生み出しては自分自身の再発明を繰り返しており、テクノロジー自体は悪ではなく、人間の使い方いかんでその真価が問われます。
テクノロジーの社会実装における時間軸
テクノロジーの社会実装にかかる時間は短期化しています。
上記の画像は米国におけるテクノロジー(製品)の世帯普及率の推移を示しています。電話、電気、自動車などが普及率50%に至るまでに20年以上の時間をかけているのに対して、携帯電話やインターネットは10年ほどで50%に達しています。
テクノロジー普及年数の短期化には複数の要因が考えられますが、主に①サービス提供コストの低下速度(製造・流通インフラ)と②利用者への提供価値の増加速度(アプリケーション拡充とネットワーク効果)によって説明がつきます。
テクノロジーのユースケース拡張
インターネットは私たちの生活や仕事の在り方を大きく変革してきましたが、同時多発的に変革が起こったのではありません。
PC・スマートフォンなどのデバイスのスペック向上と低価格化、通信インフラの高速化と低価格化、クラウドやOSS、API等による開発コスト低下とアプリケーション拡充、利用者増加に伴うネットワーク効果など複合的な要因によって50年以上をかけて漸進的に変革が実現されてきました。
テクノロジーの普及は単一のテクノロジーや1人のイノベーターのみでは実現せず、インフラとなる複数のテクノロジーや無数の個人や企業の継続的な努力により特定のタイミングで臨界点に達した時に実現されます。
私はブロックチェーン技術、web3も同様に基盤技術の発達やインフラコストの低下と共に段階的に社会実装されていくと考えます。
多くのテクノロジーは最初はユースケースの限定性からおもちゃのように見えることが多く、問題点も多数抱えています。しかし、そうした問題点はリスクと対峙しながら価値検証を繰り返すことで改善可能であることが多く、重要なことは特定のユーザーセグメントの特定のユースケースにおいて、そのテクノロジーが既存の代替手段よりも優れているかどうか(そして提供コスト低下と提供価値の増加が見込めるか)です。
現在のブロックチェーン、Web3はそのような初期段階にあります。完璧ではなく、まだ大多数の人々の役に立つわけではないですが、特定のユーザーセグメントにとっては十分なユースケースが生まれつつあります。
Web3の未来のユースケース
Web3の社会実装は一定の時間をかけて前進していくと考えますが、こちらでは未来で実現されるであろうユースケース3つと関連記事を紹介します。
ReFi(再生金融)
「ReFi(Regenerative Finance)」、「再生金融」は経済をより包括的で持続可能な形で再構築するために暗号資産のテクノロジーや考え方を活用するムーブメントです。事例として、Toucan(カーボンクレジットをトークン化してスマートコントラクトを通じて流通させる「プログラマブルカーボン」を実現しようとしています。現在までに2,190万トン以上のCO2をブリッジしています)やLoam(農業データのマーケットプレイスを構築し、農家が再生可能な農業手法に取り組むインセンティブを付与しています)があります。
DeSci(分散型科学)
分散型科学(DeSci)とは、ブロックチェーンなどの技術を用いて分散型のガバナンスに支えられた民主的なサイエンスシステムの構築と、それによるサイエンスの実践のことです。
下記は科学業界におけるブロックチェーンの活用可能性です。
スマートコントラクトは、学術出版業界を通さずに著者と査読者を繋ぐことができる。
インセンティブ設計を内包したコミュニティは、トークンやNFTを使用して、科学的コミュニティがリソースを共有、レビュー、キュレーションすることを促す。
政治的干渉を避けるためにデータや情報を永遠にブロックチェーン上に保存することで検閲に対抗する。
ブロックチェーンベースの資金調達モデルは、公共財、DeFi、NFT、DAOを使用してプロジェクトの資金を調達し、資金提供者に適切なリターンを返し、自立した科学的コミュニティを作成する。
個人の科学者の評判が検証可能になることで、どの研究機関に所属しているかではなく、個人の科学素養に基づいて科学への貢献、ピアレビュー、資金調達・資金提供ができる。
オーナーシップにより、科学者コミュニティが自分たちの研究とその研究結果を所有できる。
メタバース
「Web3 Use Cases: The Future」では、Web3ソーシャル、NFTゲーム、分散型ストーリーテリング、Tokengated Commerce、ゼロ知識証明、ソウルバウンド・トークン、DAOなどのユースケースについても触れていますので、ご興味ある方は是非読んでみてください。
経済・ガバナンスモデルのPDCAサイクル
NFT、トークンを活用するWeb3プロダクト(アプリ、ゲーム、プロトコル)は、これまでのスタートアップと同様に初期の段階から優れたプロダクトを生み出す必要があるだけではなく、経済モデル、そしてガバナンスモデルを同時に構築しなければなりません。相応に難易度の高いチャレンジとなりますが、それは経済モデルとガバナンスモデルの小規模実験でもあります。
私がWeb3に関心を持っている理由をようやく言語化できたのですが、それは「人類の協力メカニズムを進化させる可能性があるため」です。
人類は『集団脳』によって、技術革新を繰り返し、テクノロジーの新しいユースケースを創り出すことで進歩してきましたが、集団の協力関係においては、未だに不透明性を利用した権威化や搾取などを許してしまっており、多くの歪みを残す不完全なメカニズムです。
Web3は経済・ガバナンスモデルの再発明により、人類の協力メカニズムを進化させる可能性があります。それは人類が現在直面している課題を解決し、すべての人に豊かさと機会をもたらす社会の実現へ向けた進歩の速度を速める取り組みです。
そして、多くの人々が関心を持ち、リスクを取って新しいユースケースを創り出そうとしている事実(=集団脳)から、それが実現できるのではないかという期待を持っています。
テクノロジーそのものは悪ではなく、それを使う人間がその価値を決定します。現在のWeb3業界には詐欺的なプロジェクトや過度な宣伝活動など多くの問題があり、それらに対する批判と議論はWeb3産業の健全な発展に必要なものです。
耳を塞がずに正当な批判は真摯に受け止めて改善に活かしていくこと、詐欺的な不適切な取り組みが淘汰される仕組みを作ること、まだまだやらねばならないことは産業として、個人としても数えきれないほどありますが、試金石としてのWeb3を人類が適切に適用し、次世代に繋げていけるよう前進していくことが重要であると感じています。
終わりに
ジェネシア・ベンチャーズはWeb3スタートアップへ投資しています。
Web3スタートアップにチャレンジされる起業家の方(起業検討中の方)是非カジュアルに事業ディスカッションさせてください!
ジェネシア・ベンチャーズからのご案内です。もしよろしければ、TEAM by Genesia. にご参加ください。私たちは、一つのTEAMとして、このデジタル時代の産業創造に関わるすべてのステークホルダーと、すべての人に豊かさと機会をもたらす社会、及びそのような社会に向かう手段としての本質的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を目指していきたいと考えています。TEAM by Genesia. にご参加いただいた方には、私たちから最新コンテンツやイベント情報をタイムリーにお届けします。
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