〜いじめを科学的に見る〜
こんにちは!優斗です!
今回は、学校で実際に行われているいじめ対策には効果があるのか、効果のある対策は何なのか、いじめが起こる要因は何なのか、いじめにあったらどうしたらいいのかなどを科学的根拠のあるものに基づいて紹介したいと思います。
目次
1・いじめが起こる要因
1.遺伝的要因
2.親の育て方
3.性格的要因
4.連鎖
2・実際に学校で行われているいじめ対策は効果があるのか
3・科学的に証明された効果のあるいじめ対策
1.ポジティブな校風
2.Kivaプログラム
3.NO!Trap
4.OBPP
5.社会性・感情学習(SEL)
4・いじめに遭った時の対処法とは
日本で報告されているいじめの認知件数は決して少なくありません。
文部科学省の調査によると、令和2年度には小・中・高・特別支援学校を合わせて「517.163件」となっています。
前年比では減少しているようですが、決して少なくはないのが現状です。
2011年のいじめ事件をきっかけに2013年にいじめに関する法律であるいじめ防止対策推進法が施行されているにもかかわらずいじめの認知件数は増加しています。
しかし、面白いことにいじめがどのくらい解消しているかというデータを見てみると、認知されたいじめの約8割は解消しているというのです。
残りの約2割は取組中とのことです。
いじめの解決はできるのに予防はできない. . .
おかしな話ですよね(笑)
そもそも論、このデータを学校のみの報告をもとに出されているというところにも引っ掛かります。
三菱UFJ銀行の財務書類を三菱UFJのみで出していたら信用できますか?
信用できませんよね。
それと同じだと思っています。
実際に学校側の隠ぺいもよくある話です。
隠ぺいに関しては、民主主義のマイナス面があらわになっているように感じます。
民主主義はよく言えば「みんな平等」ですが、悪く言えば「多数派が正解」です。
もっとかみ砕いて言えば、いじめが発覚して得をするのは誰でしょうか?
正解は被害者だけです。
では、いじめが隠ぺいされて得をするのは誰でしょうか?
そう、まず加害者が得をします、次に担任の先生が得をします、学年主任も得をします、教頭も得をします、校長も得をします、教育委員会も得をします。
このようにいじめが発覚しないほうが得をする人が多いことが現状なのです。
これによっていじめの隠ぺいが起きるのだと考えています。
いじめに関する要因はとても多くあるのです。
実際に研究を見てみても、いじめに関する研究は多くあり、要因は多く報告されています。
今回はそんな研究の中から、信頼性が高く、多く報告されているものを中心に紹介していきたいと思います。
【1・いじめが起こる要因】
この章ではいじめの起こる要因について紹介します。
皆さんも一度はこのような議論を聞いたことがあるのではないでしょうか?
「いじめる側が悪いのか、いじめられる側が悪いのか. . .」
皆さんはこのように聞かれたとき、どのように考えますか?
私も中学校の授業でこのような議論がありましたが、多くの意見があったのを覚えています。
「いじめる側が100%悪い」「いじめられる側にも問題はある」「どちらともいえない」など、本当に多種多様でした。
私は、どちらかが悪いだろうと思っていたので選択肢は2つしかありませんでした。
しかし、現代の科学ではそれ以外の要因がある可能性が示唆されています。
これから4つの章に分けて紹介していきますが、このいじめの要因に関する研究が最も多いと思います。
その中でも最近の研究の中で分かってきたものを紹介します。
1.遺伝的要因
2008年のロンドン大学の研究です。
1994年~1955年に生まれた、10歳までの2232人の双子を対象にいじめと遺伝子の関連について調査しました。
(一卵性双生児、二卵性双生児が含まれる)
その結果、一卵性双生児のほうが二卵性双生児よりもいじめに相関があったことが分かりました。
一卵性双生児の方の相関があったことから遺伝要因が高いことが分かります。
具体的には. . .
いじめ被害者:遺伝要因 73% 環境要因 27%
いじめ加害者:遺伝要因 61% 環境要因 39%
このようになっています。
ちなみに、この遺伝的要因は年を取るごとに減少していくことが分かっています。
この研究は10歳までの人を対象にしているため、10歳以降の研究も紹介します。
2018年のバージニア・コモンウェルス大学の研究です。
バージニア双生児研究および若年者追跡調査の8歳~17歳の2844人の双子を対象にいじめと遺伝子の関係を調査しました。
その結果. . .
いじめ被害者:遺伝要因 48% 環境要因 52%
いじめ加害者:遺伝要因 54% 環境要因 46%
2015年の研究です。
イングランドとウェールズでの縦断的コミュニティーベースの双生児研究から、12歳の4826人の双生児を対象にいじめと遺伝子について調査しました。
その結果. . .
いじめ被害者:遺伝要因 35% 環境要因 65%
これらの研究からある程度いじめやすい子、いじめられやすい子は生まれた時点で決まっているということになります。
遺伝子の影響が大きい時期は小学校です。
文部科学省のデータを見てもいじめの認知件数が一番多いのは小学校です。
その要因の一つはもしかしたらこれかもしれません。
2.親の育て方
2019年のフロリダ・アトランティック大学の研究です。
13歳の子供1409人を対象に3年間追跡調査し、いじめ問題を抱える子供の特徴を調査しました。
この研究では「子どもの知性、家庭環境、生まれた時期、兄弟で何番目に生まれたか」など、様々なデータと照らし合わせ、いじめる側になりやすい子供、いじめられる側になりやすい子供の共通点を調査しました。
その結果、親の育て方が最も大きい要因でした。
具体的に言えば、子供を侮辱する親に育てられたケースが非常に多かったそうです。
侮辱したり、プライドを傷つけたりする𠮟り方や注意の仕方をされた子供は、いじめ問題を抱えやすいようです。
このように育てられた子供は、自己効力感を失いやすくなります。
いじめられた時に、文句が言えず我慢したり、周りが助けてくれるのを待つようになります。さらに、侮辱されることで親をうまく頼れなかったり、他人との距離がうまく取れなくなったり、気に食わない他人に対して攻撃するようになります。
ちなみに、このような育て方を「心理コントロール傾向」と言います。
この心理コントロール傾向の影響について詳しく調べた研究があるので紹介します
2016年のロンドン大学の研究です。
5362人を対象に60歳になるまで追跡調査をし、子供が大人になるにつれての精神的幸福度と親子関係について調査しました。
なお、データは出生時から60歳になるまで23回にわたって収集しています。
その結果、以下の3つのことが分かりました。
① 親のケアレベルが高いほど、全体を通して幸福度が高かった
② 親の心理コントロール傾向が高いほど、全体を通して幸福度が低かった
③ 行動的コントロールは幸福度とは関係なかった
(行動的コントロールとは、子供の傾向を抑制しようとする度合いのこと)
総評すると、心理コントロール傾向が高い親は、子供の人生を台無しにする「毒親」ということです。
この心理コントロール傾向によって、対人トラブルが一気に増えるのです。
補足として、「心理コントロール傾向」と「行動コントロール傾向」の違いを説明します。
子供をコントロールするという面は同じなのですが、決定的に異なる点があります。
それは「ネガティブな感情でコントロールしているかどうか」です。
ネガティブな感情とは、恥や罪悪感のことを指します。
わざと人前で怒ったり、子供が何かミスをしたときに「こんなことも出来ないのか!」などなどです。
それとは異なり、「○○をしなかった○○はあげない!」などの言い回しは恥や罪悪感などの感情を使っていないため行動コントロールということになります。
3.性格的要因
いじめの要因の一つ目では遺伝について紹介しました。
そしてこの遺伝子は性格に影響を与えていると言われています。
性格は半分が遺伝子、もう半分は環境で決まると言われています。
つまり、一つ目で紹介した遺伝要因と残りの環境要因の両方を説明できる可能性があるのです。
いくつか研究があるため紹介します。
2019年のウェスト大学の研究です。
271人の労働者を対象に、職場いじめをする人の性格特性を調査しました。
その結果、職場いじめを行いやすい人には特定の性格特性に相関があることが分かりました。
それがこちらになります。
・サイコパス:r=0.58
・ナルシシズム:r=0.54
・マキャベリズム:r=0.60
・外向性:r=0.28
・協調性:r=-0.34
・誠実性:r=-0.27
・神経症的傾向:r=0.27
・開放性:r=-0.19
相関係数は、0.3あると相関(関係)があると判断されます。
最初の3つは性格最悪人間の総称である「ダークトライアド」と呼ばれるものになります。
神経症的傾向はメンタル弱さを表し、開放性は好奇心や感受性を表します。
このデータでは、神経症的傾向が強いと出ているため、メンタルが弱いと判断しがちですが、この神経症的傾向は衝動性を表しています。
つまり、上記の数値を言葉に言い換えると以下のような性格になります。
・冷徹で残酷な判断をする
・自分が一番
・自分の利益のために他人を操る
・若干の社交性がある
・冷徹
・計画性がない
・衝動的
・好奇心、感受性があまりない
このようになります。
なんか、いじめてそうな人をイメージしたらこんな感じですよね(笑)
ちなみにこの研究を後押しするような研究もあります。
2019年のマラヤ大学の研究です。
Twitterの7つの機能(フォロー、ツイート、リツイートなど)と性格特性からいじめ行動を起こしやすい人が検出できるかを調査。
その結果、ウェスト大学の研究結果である性格特性を用いることによって最大96%の確率でいじめ傾向のある人を見抜けることが分かりました。
次はネットいじめについての研究です。
2015年のウエストバージニア大学の研究です。
227人の大学生を対象に性格特性とネットいじめの関係について調査しました。
全員の性格特性を測定し、過去1年間のネットいじめ行動について調査しました。
その結果、「サイコパス、ナルシシズム、マキャベリズム」の特性とすべて強い相関がありました。
以上の研究からいじめを行う人は一定の性格特性を持つということが分かります。
ある研究では、いじめのターゲットになりやすい人は集団の平均性格からどのくらい離れているかで決まるという研究もあるため、性格は無関係ではなさそうですね。
4.連鎖
2020年のクツタウン大学の研究です。
22件のいじめ被害者といじめ加害者の関係に関する研究を対象にしたメタアナリシスです。
その結果、以下のことが分かりました。
・いじめ被害者が時を経て、いじめ加害者になることが中程度相関していた (r=0.20)
・いじめ加害者が時を経て、いじめ被害者になることが中程度相関していた (r=0.21)
このような結果になる原因として以下の点が挙げられています。
いじめ加害者がいじめ被害者になりやすい理由. . .
原因として、いじめ加害者の集団ヒエラルキー問題が挙げられています。
ヒエラルキーとは、集団の階級制のことを指します。
人間は、似たもの同士で仲間を作る傾向があります。
つまり、いじめ加害者も仲間や集団を作ります。
その集団内でヒエラルキーの低いいじめ加害者は、ちょっとした生活の変化やきっかけでいじめ被害に遭いやすいのです。
いじめ被害者がいじめ加害者になりやすい理由. . .
先行研究で、いじめ被害にさらされることによって、6か月後に敵意や感情が強まることで、いじめ加害行動が増加することが分かっています。
さらに、自身がいじめ被害を受けることによって、いじめる方法を学んでしまい、次のいじめにつながる可能性も考えられています。
【2・実際に学校で行われているいじめ対策は効果があるのか】
この章では、実施に学校で行われているいじめ対策は効果があるかについて見ていこうと思います。
私の通っていた学校では実際にいじめが起きていました。
小学校、中学校といじめはありました。
小学校の時は他のクラスの子が対象でしたが、中学校の時は私を含めた数人が対象でした。
しかも、中学校の時のいじめの加害者は先生でした。
この時から先生に対する信頼は完全に失われましたね(笑)
皆さんも一度はいじめの現場を見たことや経験されたことがあるのではないでしょうか?
その時、先生はどのような行動を起こしていましたか?
よく見かけるのは、クラスでいじめに対する罰則を定めたり、いじめ被害者、加害者同士を話し合わせる、先生が止めに入るなどです。
このような方法を先生たちは採用していますが、本当に効果があるのでしょうか?
この疑問に対してアンサーを出してくれている研究があります。
2019年のイェール大学の研究です。
いじめ防止の取り組みに関する数十件の研究を対象にしたメタアナリシスで、本当に効果のあるいじめ対策を調査しました。
その結果、教育者が採用する「いじめ対策」の多くは、研究ではほとんど評価されませんでした。
いくつか例を挙げて紹介します。
・いじめに罰則を定める
こちらの方法は、ほとんど効果がないようです。
さらに、最も厳しい罰則である「ゼロ・トレランス方式」でも効果は低かったようです。
ゼロ・トレランス方式とは、事前に細かい罰則を定めておき、いじめが実際に起きたら厳密に処分する方法です。
・子供同士で解決させる
こちらの方法は「ピア・メディエーション」と言いますが、逆にいじめを増加させる可能性があることが示唆されています。
子供たちの問題を子供たち自身で話し合って解決させる方法ですが、その場に教師が立ち会っても効果がないようです。
・傍観者介入
こちらの方法は、いじめが起きたときに教師が止めに入るというものです。
実はこの方法は多少の効果があります。
しかし、ほとんどの大人が出来ないのです。
というのも、傍観者介入で効果を出せる大人の条件が高すぎるのです。
その条件は以下のようになっています。
・外向性が高い
・共感能力が極めて高い
・高い社会的地位を持っている
・高い道徳性を持っている
これらすべての条件を満たさなければ傍観者介入の効果は出ないのです。
そもそも論、このような教師が多くいればいじめの認知件数は減少しているはずです。
上記の条件を満たしていない教師が傍観者介入をしたところで、ほとんど効果がありません。
これらの方法は教育現場でよく見かけますが、ほとんど効果が示されていません。
つまり、表面上は解決したように見えますが根本的な解決になっていないのです。
では、どのような対策に効果があるのでしょうか。
次の章ではその方法について紹介します。
【3・科学的に証明された効果のあるいじめ対策】
この章では多くの研究からわかった「本当に効果のある科学的に証明されたいじめ対策」について紹介します。
この章では主に以下の2つの研究をもとに進めていこうと思います。
・2019年のイェール大学の研究
いじめ防止の取り組みに関する数十件の研究を対象にしたメタアナリシス
本当に効果のあるいじめ対策について調査
・2020年のスペインの研究
以下の条件に当てはまる77件の研究を対象にしたメタアナリシス
効果のあるいじめ対策について調査
条件. . .
① 学校でのいじめを評価したもの
② いじめ防止プログラムの効果を評価したもの
③ ランダム化比較試験という研究デザインのもの
④ 結果を報告したもの
⑤ 英語で発表されたもの
メタアナリシスとは、複数の研究をまとめさらに深く研究されたもののことを言います。
論文の論文のようなイメージです。
ランダム化比較試験とは、対象者に変化を加えるグループ、変化を与えないグループの2つに分け、効果を調べる方法になります。
グループ分けに関しての情報は研究者にもわからないようにしているため、偏見の防止になり信頼性の高い研究となるのです。
ちなみに、論文の中で最も信頼性の高いものがメタアナリシスで、2番目がランダム化比較試験と言われています。
論文は科学的で信頼性が高いというイメージですが、論文の中にもランキングがあるのです。
上記2つの研究の信頼性が高いことはわかっていただけたと思うので、本編に戻りたいと思います。
ひとつ前の章で「学校で行われてるいじめ対策にはほとんど効果がない」と言いましたが、実は若干の効果はあります。
それはいじめ教育で以下のような効果が報告されています。
学校でいじめ教育を受けると. . .
・147人受けると、いじめを1件防ぐことが出来る
・140人受けると、いじめ被害者を1人減らすことが出来る
・207人受けると、いじめ加害者を1人減らすことが出来る
・167人受けると、ネットいじめを1件減らすことが出来る
このように学校でいじめ教育を普通にするだけでも若干の効果はあるのです。
やらないよりはマシですが、あまり変わらないというのが現状のようです。
では、ここからはいじめ対策に効果が報告されているもの5つを紹介していきます。
1.ポジティブな校風
こちらの方法は、簡単に言うと子供たちに通っている学校に対する愛校心のようなものを植え付けるというものになります。
しかし、この方法に関してはできると大きな効果があるのですが、ほとんどの大人が出来ないのです。
この方法にも効果をもたらすための条件があるのです。
この方法を行うにあたって最も重要な位置を占めるのは学校の校長先生になりなす。
そして、この校長先生が宗教団体の教祖のようなカリスマ性やリーダーシップを兼ね備えている必要があるのです。
そんな校長先生見たことありますか?(笑)
私は見たこともありませんし聞いたこともありません!
多くの場合、校長先生は定年を迎えると天下り先へ行きます。
そして、この天下り先に天下るには校長をしている学校で問題が起きないことが重要なのです。
そのため、多くの場合何か問題が起きても対応が消極的になりがちです。
これは聞いた話ですが、あと一年で定年の校長先生に担任の先生がクラスで起こったいじめを報告すると、その担任の先生が校長先生にいじめられたそうです。
この話を聞いた時とても驚いたのを今でも覚えています。
学校のいじめが無くならないわけですよね。
ここで重要なのは、すべての校長先生がこうではないということです。
多くの人から慕われるような校長先生もいらっしゃることでしょう。
そのような先生である場合、この方法による大きな効果を期待できると思います。
「ただ私は会ったことないけれど」という話です。
2.Kivaプログラム
これはフィンランド生まれのいじめ防止プログラムで、義務教育期間の児童生徒を対象にしています。
このKivaプログラムは「Kivaレッスン」と「Kivaゲーム」から構成されています。
『Kivaレッスン』
Kivaレッスンでは、教室でクラス全員が一緒に参加し、いじめの構造についての講義を受けたり、実際にどのような行動がとれるかをディスカッションしたりします。
『Kivaゲーム』
Kivaゲームでは、いじめの場面を想定し、どう行動するべきかを考えるコンピュータシミュレーションゲームを行います。
シミュレーションでは、場面ごとに考えることができ、相手の感情や考えが表示されるため、主観的かつ試行錯誤的にいじめへの対応の仕方を学ぶことが出来ます。
Kivaプログラムでは、いじめ加害を焼く9%減少させ、いじめ被害を約11%減少させる効果が報告されています。
Kivaレッスンに関しては日本でも近いことはできているような感じはしますよね。
しかし、Kivaゲームに関しては全くできていないように感じます。
フィンランドは教育大国とも言われているため、教育政策に対しては積極的です。
そのような国発祥のものであるため、導入してみるのもいいと思うのですが. . .
そう簡単にはいかないのかもしれません。
3.NO!Trap
このプログラムは、ネットいじめにも対応した内容のプログラムであり、オンラインとオフラインの両方で活動します。
2段階で構成されています。
『1段階目』
1段階目では、大人や教師が主導でいじめに対して教育をします。
この場面では、大人や教師のいじめに対する専門性や理解度が重要になります。
『2段階目』
2段階目では、1段階目を踏まえて、教室とオンラインの両方で代表生徒がほかの学生に教える「ピア・エデュケーター」を行います。
学生同士でいじめについて学ばせることが特徴的なプログラムです。
NO!Trapでは、いじめ被害を約37%減少させる効果が報告されています。
この方法を行うに当たって、大前提になるのが1段階目の教える側の専門性です。
これは、教員に求めるのは難しいかもしれません。
なぜなら、もし教員にそのような専門性があったとするならば、認知件数は減っていてもおかしくはないからです。
さらに、教員という職業日本トップクラスにブラック企業です。
そんな職業環境の人たちにいじめについての勉強をしろ!と言ってもそんな時間はとれるはずがありません。
これに関しては外部の人間に頼る方が現実的かもしれません。
4.OBPP
スウェーデン生まれのいじめ防止プログラムです。
こちらの方法は、教員や親を含めた子供の周囲の大人がいじめ問題に取り組むという問題意識を共有することが前提条件になります。
そのうえで、学校、学級、個人、の各レベルで取り組みをするプログラムになります。
具体的なものを1つ挙げるとするならば、親子でいじめ教育を受けるなどです。
OBPPは、いじめ加害を26%減少させる効果が報告されています。
多くの日本の学校は、先生が生徒に対していじめの教育をしますがそれでは効果が弱いのです。
学校のホームページには多くの場合いじめが発生した時のチャートのようなものが掲載されていますが、どのくらいの保護者がその存在を知っているでしょうか。
どのくらいその通りに進んでいるでしょうか。
つまり、保護者も一緒にいじめ教育を受けなければいけないのです。
そうすれば、いざいじめが起きた場合にスムーズに動くことが出来ます。
いじめは学校という以上に閉鎖的な空間で起こりますが、子供たちの周りの大人たちがいじめに対する問題意識を共有することによって、その問題意識が子供にも誘発される可能性も高まります。
5.社会性・感情学習(SEL)
こちらの方法は、対人関係のスキルを学ぶトレーニングですが、いじめ対策に最も効果があるのではないかと言われています。
SELで学ぶスキルは以下の5つとなっています。
・自己理解:自分の感情と思考を理解する力
・セルフマネージメント:自分の感情と思考を適切に理解する能力
・社会と他人の理解:どんな相手に対しても共感と理解を持つ能力
・人間関係スキル:コミュ力や傾聴力、交渉力などを発揮する能力
・責任ある意思決定力:社会的なルールに従って問題解決ができる能力
このようになっています。
社会的・感情学習(SEL)は、身体的いじめを33%減少させ、悪口・陰口が72%減少させる効果があることが報告されています。
すべての方法について言えることですが、特にこちらに関しては指導者側の指導力が問われます。
しかし、多くの研究から効果があることが明らかになっています。
たとえば. . .
・複数のメタアナリシスや、数十万の生徒を対象とした個別研究から、SELを学んだ子供は幸福感が上がり、セルフコントロールが上手くなり、クラスでの人間関係が改善し、親切な行動が増える傾向があった
・メタアナリシスから、感情的な能力のトレーニングを行った者は、いじめの被害者になりにくいことが分かった
また、社会的な能力の発達は、いじめ加害者になる可能性を下げることが報告されている
・一部の縦断研究から、SELのトレーニングを受けた子供は、中年になっても、ポジティブな効果が持続していることが分かった
(離婚や失業の減少など)
かなり良い効果が表れていることがわかります。
では、ここからは実際にSELで行われているトレーニング内容について紹介します。
SELのトレーニングは多くあるため、いくつか抜粋して紹介したいと思います。
参考にするのはロヨラ大学の先生の本です。
・マインドフルネス
マインドフルネスとは、簡単に言えば瞑想のことです。
主に以下の2つを行います。
『ビジュアライゲーション』
今感じているストレスを具体的な物体として想像し、自分の中でどのように感じられるかを確認したら、それを解放するように促す方法です。
心理療法でいうところのイメージ療法に近いです。
『ノイズ瞑想』
まずは落ち着ける場所に移動します。
そしてその場所でじっと耳を澄まし、あたりの環境音の中から一つをピックアップします。
ピックアップする音は、人の足音や鳥の鳴き声、車の音など何でも構いません。
そして、その音がどのような感覚を呼び起こすかを感じていきます。
このマインドフルネスは、メンタルを安定させたり、性格を改善したりと多くの場面で効果を発揮することがわかっています。
初期の頃は注意が散漫になりやすいですが、習慣化されてくるとだんだんと上手くできるようになってきます。
・感情の名づけ
こちらの方法は、今現在自分の中に湧き上がっている感情について、声に出して説明してもらう方法になります。
学校で行う場合は、クラスで一人を選びその人に自分の感情について説明してもらい、残りの生徒は聞き役に回ってもらいます。
このようなワークを行うことによって、自分や他の生徒がどのように感じているかの理解が進み、コミュニケーションスキルが上がるのだそうです。
恥などの感情をはねのけ、これが出来るようになってくると、いい感じに同調圧力から解放され、無意味に周りに流されることもなくなります。
・ストレスの外在化
こちらの方法は、自分の感じているストレスを紙に書きだした後に、その紙をビリビリに破って捨てる方法になります。
紙に書く内容に関しては、無駄な期待やちょっとした不安など自分のストレスに関するものであればなんでも構いません。
この方法を授業が始まる前に行うことによって、生徒が自分のストレスを把握させ学習の障壁を克服させる効果があるようです。
・名言シェア
こちらの方法は、生徒が好きな名言や、クラスで共有した経験に関する名言を、みんなでシェアし合う方法になります。
クラス全体で話し合いをしたり、各生徒に自分の好きな名言を発表してもらった後に、その名言への返答を一言ずつ書いてもらったりします。
たまに、先生が自分の好きな名言や格言のようなものを言っている場面に遭遇することがありますが、あれもこの方法に近いです。
あそこまで長く語る必要はありませんので、名言一つと簡単な理由で十分です。
・由来ディスカッション
こちらの方法は、生徒から幼少期の頃の写真を集め、授業の最初に1枚の写真を全員に見せ、その写人に写る人物がどの生徒かを推測します。
さらにそこから、その幼児がどのような幼少期を過ごしたかを想像して話し合ってもらいます。
写真1枚から相手の過去を当てるというと超能力者みたいですが、まさにそのような感じで行っていきます。
推測が当たっていると面白いですよね。
・見知らぬ会話
こちらの方法は、クラス内の知らない生徒とペアになってもらい、お互いに5つの質問をさせます。
この質問内容に関しては基本的にどのようなものでも構いません。
そして、話し合いが終わったらクラス内の生徒たちに「私のペアはこんな人です」と紹介をしてもらいます。
要するに他己紹介ですね。
これは、学校でもよく見かけますね。
この他己紹介は相手のことを分かっていないと上手くできないため「共感能力」に重点を置くのがコツです。
・ポジティブな張り紙
こちらの方法は、各生徒の背中にA4の紙を貼ってもらい、クラスを歩き回ってもらいます。
そして、ほかの生徒はその紙にその人のポジティブな特徴を書き込んでもらいます。
これはうれしいですよね。
新たな自分の一面を知ることが出来る機会になるかもしれません。
よく学校で人の背中に言葉の書いた付箋などを貼る悪戯がありましたが、あれのポジティブバージョンとでも言いましょうか
まあ、あれに関してはポジティブな言葉であっても恥ずかしいかもしれませんが(笑)
以上が実際にSELで行われている方法になります。
これ以外にも方法は多くありますが今回は割愛します。
こうしてみてみると実際に学校で行えそうなものもいくつかありますよね。
ぜひ実践してみてほしいものです。
【4・いじめに遭った時の対処法とは】
前の章ではいじめ対策について紹介しましたが、実際にいじめに遭ってしまった場合どうすればよいのでしょうか。
一番最初に思いつくのはおそらく「先生に言う」ということだと思います。
しかし、私はこの方法を得策だとは思っていません。
イェール大学の研究を見ても、教育者の採用するいじめ対策に効果がないことは明らかですし、そもそも教師がいじめを理解していない可能性もあります。
それに、多くの場合いじめは閉鎖的な空間で起こります。
しかし、閉鎖的な空間では隠ぺいがしやすいのです。
序章のところでも書きましたが、民主主義の限界であり、得をする人が多いほうが正解になるのです。
さらに、教育機関の構造にも問題があります。
現在の構造は、まず学校があり、次に教育委員会があり、最後に文部科学省があります。
いじめが起きた場合、まず学校に話をすることになります。
そして、そのあとに教育委員会に話があるのですが、まずここで問題があります。
何かというと、教育委員会の会議は月に1回しか行われないのです。
教育委員会には、何か重大な問題を起こした児童生徒を出席停止にできる権限があるのですが、月に1回しか会議が行われないとなると、その判断が下されるまでにも時間がかかります。
そしてもう一つ構造的な欠陥があります。
それは、学校側への忖度です。
学校の先生も教育委員会も学校側の立ち位置であるため、学校を守ろうとするのです。
会社の場合、労働者と会社の公平性を保つために、第三者機関として労働基準監督署があります。
このように言うと「学校の場合は第三者委員会があるじゃないか」と言われるかもしれませんが、この第三者委員会が問題なのです。
第三者委員会と言っているくらいなので公平性が保たれていると信じたいものですが、それがそうもいかないのです。
どういうことかというと、第三者のいろいろな人たちが選抜されてこの委員会に参加するわけですが、学校側に有利な人選がされている場合が多いのです。
この人選に関しては、いじめ防止対策推進法によって公平性を保つように定められているのですが、機能していないのが現状です。
この点に関しては、現在問題視されており、議論が進んでいるようです。
このようなことから、私は学校に相談するということが得策だとは考えていないわけです。
とはいっても、学校側に相談というのが第一ステップという場合が多いでしょう。
上手くいけば、いじめが改善する場合もあるかもしれません。
なので、まずは学校に相談してみるのが良いと思います。
その後、解決しない、解決の見通しが持てないということであれば、これから紹介する方法を選択肢の一つとして加えてみてはいかがでしょうか。
では、紹介していこうと思います。
科学が示すいじめに遭った時の対処法第一位は「転校する」です。
シンプルですが、これが一番効果的とのことです。
第1章の要因のところでも少し書きましたが、いじめはそのクラスの平均性格からどのくらい離れているかで決まります。
そのため多くの場合、環境を変えれば改善ことが多いのです。
いじめに遭ってしまったときに不登校という選択をとってしまう方がいらっしゃいますが、私はその選択をしてもいいと考えています。
逃げたっていいと思います。
その経験から得ることもあるでしょう。
ただ、学校へ通うことのメリットも知っていただきたいです。
さらにそのメリットは学校でなくても条件を満たせば得られるものなので、ぜひ知っていただきたいです。
2018年のエジンバラ大学の研究です。
42件の研究を対象に行ったメタアナリシスです。
学校に行くと頭がよくなるのかについて調査しました。
その結果、学校に1年行くと、平均でIQが1.197~5.229ポイント上がる、長く学校へ行けば平均で3.394ポイント上がる傾向が報告されました。
さらに、被験者が70~80代になってからIQテストを受けた場合でも、学校の効果が確認されました。
ここで重要なのが、IQは勉強によって上がったというわけではないということです。
では、何によって上がったかというと、人間関係です。
それも特に同世代の人たちとの人間関係です。
意外な結果ですよね。
同世代の人たちとの人間関係によっておこるトラブルやいざこざなどでIQは上がるというのです。
さらにこの結果を裏付けるような研究もあります。
2013年のニューヨーク大学の研究です。
8件のけんきゅうを対象にしたメタアナリシスです。
人間の知性(IQ)を向上させるために何が効果的で、何に効果がないのかを調査しました。
まず、この研究の結果として「IQを向上させるもの」と「IQアップには関係ないもの」が判明しました。
そして、IQアップには関係ないものの中の一つに「早期教育」があったのです。
早めに教育をしようが、遅めに始めようがIQレベルには何の違いもなかったのです。
さらに、クオリティの高い幼稚園に通わせる場合のほうが、IQが4ポイント上がる傾向もあったそうなのです。
つまり、同世代の人がいる環境が知性を伸ばすということになります。
総評すると、学校へ行って同世代の人たちと関わることによってIQは上がります。
これが学校へ通うことによる最大のメリットです。
学校は出会いに行くところなのです。
しかし、同世代の人たちと関われるコミュニティであれば別に学校である必要はありません。
よく授業中寝ている生徒に対して「学校は勉強をするところだ!」と言っている先生がいますが、あれは科学的には間違っているということになります。
今回はいじめについて科学的根拠のあるものを紹介しました。
現在、学校のいじめ対策が遅れているのは紛れもない事実です。
私の場合は、なぜか先生からいじめられました。
その経験から得たものも多いですが、それと同じくらいダメージも受けました。
なのでいじめ被害者の気持ちは少しはわかっているつもりです。
今になって思えば「なんであんな人が教員をやっているんだろう」と思います。
多くの先生は「いじめは許さない」と言いますが、許さないだけでは何も変わらないのです。
私は教員という職業は医師や弁護士よりも責任の重い職業であると考えています。
医師や弁護士の場合、仮に失敗をしたとしても言葉は悪いですが一人の人生を狂わせるだけです。
しかし、教員の場合1クラス30人と仮定すれば、一度に30人分の人生を左右することになります。
さらに、教育による効果が出るのは数年後であるため何百人分の人生を左右します。
仮にその先生が悪い先生だった場合、犠牲者は数百人となるのです。
学校のいじめは基本的に子供同士で起こるので、起こるのは一万歩譲って仕方がないとしても、いじめの対策、対応をしない教員は許せません。
児童生徒をいじめの対象にする教員なんて論外です。
今いじめられている方には現状を打破していただき、教育者には環境を改善していただきたいと思っています。
長文になりましたが、ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございました!
参考文献
https://www.mext.go.jp/content/20201015-mext_jidou02-100002753_01.pdf
Ball, H. A., Arseneault, L., Taylor, A., Maughan, B., Caspi, A., & Moffitt, T. E. (2008). Genetic and environmental influences on victims, bullies and bully-victims in childhood. Journal of child psychology and psychiatry, and allied disciplines, 49(1), 104–112.
Dunbar, E. (2018). Genetic and environmental influences of bullying involvement: a longitudinal twin study.
Shakoor, S., McGuire, P., Cardno, A. G., Freeman, D., Plomin, R., & Ronald, A. (2015). A shared genetic propensity underlies experiences of bullying victimization in late childhood and self-rated paranoid thinking in adolescence. Schizophrenia bulletin, 41(3), 754-763.
Daniel J. Dickson, Brett Laursen, Olivia Valdes and Hakan Stattin(2019). "Derisive Parenting Fosters Dysregulated Anger in Adolescent Children and Subsequent Difficulties with Peers"
Stafford, M., Kuh, D. L., Gale, C. R., Mishra, G., & Richards, M. (2016). Parent–child relationships and offspring’s positive mental wellbeing from adolescence to early older age. The journal of positive psychology, 11(3), 326-337.
Walters, G. D. (2020). School-age bullying victimization and perpetration: a meta-analysis of prospective studies and research. Trauma, Violence, & Abuse, 1524838020906513.
Walters, G. D., & Espelage, D. L. (2018). From victim to victimizer: Hostility, anger, and depression as mediators of the bullying victimization–bullying perpetration association. Journal of school psychology, 68, 73-83.
Rethinking School-Based Bullying Prevention Through the Lens of Social and Emotional Learning: a Bioecological Perspective
https://link.springer.com/article/10.1007/s42380-019-00019-5
Fraguas, D., Díaz-Caneja, C. M., Ayora, M., Durán-Cutilla, M., Abregú-Crespo, R., Ezquiaga-Bravo, I., … & Arango, C. (2021). Assessment of school anti-bullying interventions: a meta-analysis of randomized clinical trials. JAMA pediatrics, 175(1), 44-55.
Gaffney, H., Farrington, D. P., & Ttofi, M. M. (2019). Examining the effectiveness of school-bullying intervention programs globally: A meta-analysis. International Journal of Bullying Prevention, 1(1), 14-31.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?