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イブの難波

大晦日とか正月って、人生の通知表みたいな感じがする。

朝井リョウ『正欲』

少し前に読んだ小説の一節をふと思い出した。

◇◇◇

旅の予定を繰り上げたことで、この日のうちに難波まで行けることになり、急遽、難波の宿を予約した。難波駅から徒歩10分ほどのゲストハウス。当日予約で2800円。宿泊客のほとんどが外国人観光客で、それもアジアから欧米、中東系まで様々な顔立ちの人がいた。

チェックインを済ませて、カメラを片手にクリスマスイブの難波に出かける。
看板の照明とイルミネーションに照らされた街には、家族と、恋人と、友人と、この特別な夜を過ごす人々が集う。一人でいるのは、サンタの格好をしたバイト中の青年と、酒を片手に歩くおじさんくらいなもんだ。その二人もいつの間にか並んで、何かを語らっていたが。

人々が行き交う。
違う時間、違う場所で生きてきた誰か。その名前も知らない誰かと、同じ時間、同じ場所を共有しているという偶然の集積。偶然はただ偶然として起こり、通り過ぎていく。人生の中で知り合える何十倍も何百倍も多くの人とすれ違うのに、一度たりとも、その人たちと僕の人生が交錯することはない。

視界を流れていく人と物を写真に収めながら、足を進める。そのうち、行き交う人々の足元にも目が行くようになる。

ゴミ箱はすでに飽和状態で、溢れたゴミが路上に散乱している。所々で回収が行われているが、それをはるかに上回るスピードでゴミが捨てられる。缶ビール、紙コップ、煙草の吸い殻、食べ物の包装。不思議だ。人の手や口と接しているときは、清潔なものとして扱われているのに、人の手を離れた瞬間に汚いものとして扱われる。確かに地面に落ちたものは不衛生という意味において汚いが、ゴミが汚いということにはそれ以上の観念的な何かがある。

すれ違う人々と、捨てられたゴミにレンズを向けて、黙々とシャッターを切った。

たまにゴミを撮っている人見かけるけど、意味がわからない。僕は絶対に撮りなくない。だって汚いもん。

以前、XがTwitterだった頃、こんな趣旨の投稿を見た。
確かにこの投稿には一理ある。ゴミの写真を撮ること、撮ってもそれをSNSにあげることを嫌う人の話はよく耳にする。
どうして僕はわざわざゴミの写真を撮っているのかという問いが浮かぶ。なんだろう、ただ撮りたいから。ではどうしてゴミの写真を撮りたいのか。

路上にゴミを捨てることに対する怒りだろうか。それは違う。ポイ捨ては良い行為だとは思わないが、写真を通してそのことを批判したいわけではない。だとしたら、、、。

違和感だろうか。

僕がゴミを撮るのは、ゴミが本来あるべきはずのゴミ箱にではなく、道端やベンチに捨てられていることに対して、おそらく違和感を感じているからだ。

何かを見て感動することも、何かを見て嫌悪感を抱くことも、普通の状態からの「ずれ」、すなわち「違和感」に対する心の動きという意味においては同じ現象であって、その前に置かれる符号がプラスかマイナスかという違いがあるだけだ。

路上の煙草

結局、2時間半も道頓堀付近で写真を撮っていた。
じっと一つの場所で通り過ぎる人を観察しながらシャッターを切ったり、パチンコの前に捨て置かれたストゼロを15分くらいしゃがみ込んで撮影したりする。
寒さで手が震えながらもカメラをできる限り固定するように心がける。

いい加減疲れて、すき家で400円の牛丼を食べ、宿に向かって歩く。

宿に戻ると海外からの観光客が地下の共用スペースで談笑している声が聞こえた。とりあえず、部屋に荷物を置き、シャワーを浴びる。
当然ドミトリーで二段ベットの下を割り当てられた。上のベットを使っている人はすでに横になっているようで、規則的な呼吸音と寝返りを打つ音が聞こえる。

徘徊の間に撮った写真をとりあえずPCに落としたかったので、あまり気は乗らなかったが、盛り上がっている共有スペースに行ってみた。
案の定、テーブルの上にはお酒の空き缶が大量に並べられていて、英語と韓国語が飛び交っている。欧米系の男性が3人と、あとは韓国人が7、8人といったところか。途中、中東系の人も来たが席がいっぱいで帰っていた。
朝イチで直島を出て、難波に着いたのが20時、そこから2時間半の徘徊。一刻も早く寝たかった。相手が気の置けない友達であっても、酔っ払っている集団のそばに、シラフでいるというのは精神的なダメージが大きい。

PCに変換アダプターを繋ぎ、SDカードを差す。

写真をインポートしています。残り時間〇分。

その文字を眺めながら、何を話しているのか耳をそば立てるが、英語が速すぎて何を言っているのかあまり聞き取れない。

0件の写真をインポートしました。

PCの右上にインポートできなかったことを知らせる通知が出る。周りの空気感と自分のテンションの温度差にもやられ、HPのゲージが黄色から赤色に変わる。SDカードを抜き、もう一度、差し直す。

写真をインポートしています。残り時間〇分。

欧米の男性3人の元に、日本に留学に来ている韓国人2人が合流する。少しだけ英語のスピードが落ちる。どうやら日本語の持つ多義性についての話で盛り上がっているらしい。ちょうどそこにいた日本人が僕だけだったので、何やら質問したげな視線を感じたが、気づかないふりをする。

0件の写真をインポートしました。

やっぱりダメだ。
たぶんPCのストレージがいっぱいなのだろう。今から旅の間に撮り溜めた写真を整理して、ストレージを空けるだけの気力は残っていない。PCを閉じて、誰とも目を合わせないようにして共有スペースを出た。

部屋に戻り、荷物の整理と歯磨きをさっさと済ませ、ベットに横になる。
カメラとスマホを充電してないことに気づき、嫌々身体を起こして、コンセントにケーブルを挿し、6時半にアラームをセットした。

睡眠不足だったせいか、あっという間に眠りに落ちた。

サンタ苦労す。


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