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一秒が紡ぐもの

「うるうの朝顔」~水庭れん~

人は見たいものだけを見て信じたいものだけを信じる。だからたった一秒の中に存在する大事なものを見逃してしまう。たった一秒の認識の違いで未来が変わる。
「一秒」という時間と向き合って取り零さないように生きていきたいって強く思った1冊。

|言葉の抜粋|

*「ランク付けって、序列って、優劣ってことじゃないですか。つまり、ランク付けが生み出すのは優越感と劣等感ですよね。それって、人間にとってはどつっちも有毒だと思うんです」

*はっきりしていた喜怒哀楽も、恥じらいや遠慮を覚えて曖昧な色味の中へと埋もれていってしまう。

*牢獄のようなこの箱の中で、寄る辺がなくとも生きて行かなければいけない。

*「わたしは、言葉の形を決めるのは、受け取る方だと思います。だからあの雨宿りの日、思ったんです。日置さんはたくさん喋るけれど、それはきっと優しいからだって。感性が柔らかい人ほど使う言葉は増えていくのかもしれない、って」

*「一年をずっと三百六十五日で続けていると、ほんの少しずつ季節と歴がズレていくんです。極論を言えば、いつかは八月が真冬になり、十二月が真夏になる時が来ます。それを防ぐために、四年に一日、うるう日が挿入されます。大きなものを変えずにいるために、小さなものを変えるわけです」

*「アニメや小説に熱中していると『現実逃避』って言われることがあるじゃないですか。ちゃんと現実も見なよ、って。あれ、どうしてただ逃げているみたいな言い方になるんでしょう。確かに、空想世界が魅力的だから、日常が絶望的だから、そういう理由で非常口として使う人もきっといます。けど僕は、本質はむしろ反対なんじゃないかと思うんです。だって、そこで得た発見とか感動ってちゃんと現実に返ってきませんか。いいものを見たり読んだりすると、景色がきらきらしませんか。こちら側の解釈が変わると、目の前の物事は意味を変える。作り手と受け手で、現実を塗り変えてるんです。逃げているというより、闘っているという方が近い気がします。創作物は、現実をより豊かにする武器だと思います」

*「その人にとっての普遍性に当てはまったからといって、国見くんが普遍的だということにはなりませんよ」

*「どうしてみんな愛情と幸せをすぐ近くに置きたがるんでしょう。愛されるから苦しい、愛してるから幸せにならないことだって身の回りに山ほどあるのに。愛を捨てる、愛から離れることが幸せだったとして別に矛盾しませんよね」

*「愛は対象との間でしか成立しない。反対に幸せはその人の中でしか形作られない。『自分の幸せは自分で決める』っていう言い回しありますけど、正確には『自分にしか決められない』ですよね。幸せに限らず、なんだってそうじゃないですか。みんなのも
のにしようとした時点で誰かのものではなくなる」

*「いいえ、誰も決めてません。ある意味、みなさんがそうしたんです。使う側がそういう風に言葉を扱うから、そうなっていくんです」

*「俺さ、居場所って要するに人のことじゃないかって思うことがあるんだよ。実はみんな他人の中に居場所をもってんじゃないかって」
そうかもしれない。だから、誰かの居場所を奪うのもいつも人なんだ。自分の中だけに居場所があれば、きっとみんなもっと幸せに生きていける。

*「その友人が母親から繰り返し言われていたことです。『生きていくには、なにかひとつでも大切な秘密を抱えておきなさい。その秘密と同じくらい大切な人が出来た時、それを分け合いなさい』友人はそう言って、僕にこの種のことを話してくれました」

*「そう。うるうは、余分って意味だよ。つまりは仲間外れ。正しいものを正しく保つために、その身を捧げる存在なの」

*その先、ボタンをひとつひとつ改めてかけていくのは、「ズレ」を正そうともがくのは、今をゆく残された者たちだ。たとえ「ズレ」が生じてしまっても、それでも顔を上げて生きる。日々は、そんな一秒の集合体なのだ。

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