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誰が猫を殺したのか。

誰が猫を殺したのか。
本日、保護した野良猫が死んでしまいました。

死んだというのはあまりに悲しいので、"旅立った"ことにします。
出会ったのは、一昨日の夕方。

ギャァァァアア!!ギャァァァアア!!

聞いたこともない叫び声に驚いたぼくが外を見ると、道路の端の方で変な飛び跳ね方をしている野良猫がいた。
交通量も多く、見通しの良い道路なので、車もスピードを出す道だ。

「はねられたか!?」
ぼくはすぐに飛び出した。
近くの家の庭でぐったりする野良猫。
見たところ外傷もなく、ひかれた痕跡はない。

どうして良いかわからず、病院に電話するぼく。
受付の女性が電話に出てくれ、様子を伝えると猫がのたうちまわり始めた。
恐ろしくなるほどの叫び声を上げながら、異常なほどにのたうちまわる猫。

受付の女性は先生につないでくれた。
先生に事情を話すとこう言われた。

「交通事故にあった猫を助けるのは難しいですよ。それにお金も10万円〜20万円かかります。野良猫の場合にはどんな病気を持ってるかわからないし、突然暴れるかもしれないので、うちではみれません。それに猫は自然の生き物です。自然の生き物に人間が手を出すのは良くありません。そのままにしてあげてください。」

そのまま?見殺しにしろと?
ぼくはまた先生にお願いをした。
でも答えはNoだった。

もちろん先生は悪くない。
言っていることは、もちろん正しい。
でも正しさでは、心は割り切れないのだ。

次の病院にかけると、おなじく女性が出て、状況を説明すると先生につないでくれた。
このとき猫はうつぶせになり、荒く息をしていた。
視線の先には母親とみられる猫が。
その猫と見つめ合い、荒く息をしていた。

「すぐに連れてきてください。」
先生はそう言ってくれた。

やった。助かる。
ぼくはうれしかった。
でも同時にあることが頭をよぎった。

ーお金も10万〜20万円はかかりますよ。

さきほど断られた先生の言葉だ。
そう。
ぼくはお金の心配をしてしまったのだ。

先生に費用を聞くと、できる限り費用負担がないようにすると言ってくださった。
自分の薄汚さを恥ずかしく、そして憎く思いながら急いで着替え、段ボールに野良猫を入れ、病院へ。

先生はすぐに処置をしてくださいました。
「アンモニアの数値が異常に高く、腎臓が機能していない。おしっこがうまくつくれていないようです。」

間違えて毒物を食べてしまったのか、考えたくないけれど、猫嫌いな人が毒物を与えたかもしれない。
とても悲しかった。
まだ4ヶ月程度の子猫だから、興味本位で口にしたのかもしれないと。
点滴を打ち、すこし落ち着いた猫を預け、その日は帰宅。
なにかあれば電話をくれるとのことだった。
家に帰ってからも猫が気になり、いろんなことを調べていました。

そして連絡はなく、朝を迎え、いつもと変わらず仕事をこなす。
夜に病院にいくと、ICUの中でうつ伏せになる猫。
相変わらず数値は悪いそうだ。

おしっこは少し出たけれど、それでも量が少ないそうで、循環ができていなかったらしい。
ときどき手足を動かし、もがいていた。
先生曰く、逃げようとしている、と。

それから今後について話をし、いつまで治療をするか、もし元気になったら里親を探すかなどいろいろと相談に乗ってくださった。
1時間ほど様子を見たぼくは、なんとなく大丈夫そうだと感じ、再度先生に預けた。

猫は本当に生きたがっているのかと聞くと、
「猫は自分から死ぬことは考えません。助けてもらったからこそ、生きようと思っていると思います。」
と言ってくださった。
少し救われた気になったぼくは、帰宅し、一息ついた。

人生は出会いで変わる。
ぼくはそれを実感していた。
むかしから動物が好きで、保護団体への支援もしてきた。
でももっと身近な野良猫の助けになりたいと思った。
そのために何ができるだろう。
ずっと考えながら、元気になることを祈った。

いまはペット禁止のマンションだから、ペットを飼える物件に引っ越そう。
嫁にも提案し、新しい暮らしを考えていた。

そして迎えた今日。
病院にいく前に、猫が倒れていた家を訪問した。
首輪はしていなかったが、もし飼い猫だったときに勝手に里親に出すわけにはいかないと思ったからだ。
それに急にいなくなって心配しているかもしれない。
少なくとも野良猫と見つめあっていたお母さん猫は、同じ場所にいて、同じ場所を見つめていた。

声をかけると住民のおじいさんが出てきてくれた。
話を聞くと、飼い猫ではないらしかった。
「でも今年の4月くらいに生まれた子猫はどんくさくて、よく壁に頭からぶつかるんだよな。一昨日も壁にぶつかって鳴いてたわ。」

一昨日というと、ぼくが猫を病院に連れて行った日だ。
猫の特徴を伝えると、おじいさんは「その子、その子。」と言っていた。

病院に着くと先生が中に案内してくれ、状況を説明してくれた。
昨晩からカリウムが高く、数値を下げる薬を与えているが、変化がないとのことだった。
今朝から人工透析もしているらしかった。
おじいさんに聞いた話を先生に伝えると、先天的になにか病気を持っているかもしれないと言っていた。

状況説明を聞き終えると、猫が少し痙攣し始めた。
少ししておさまったと思ったら、嫁とぼくと先生をそれぞれじっと見つめ、動かなくなった。

え?
うそでしょ。
まさか。

猫に聴診器を当てる先生。
「残念ながら…」
ぼくは泣いた。
嫁も泣いた。
先生も泣いていた。

でもあれだけ鳴いていた猫は、とても静かだった。
一通り泣き終えたぼくは、先生にお礼を伝えた。
先生は「きっとお二人を待ってたんですよ。お礼を言いたかったんだと思います。やさしい人に助けられてうれしかったと思います。」と言ってくださった。

何度も何度も頭を下げ、お礼を伝えた。
先生は綺麗にしてから火葬に連れて行ってあげて欲しいと言ってくれ、今晩は預けることになった。

こうして野良猫とぼくたちの短い付き合いは幕を閉じた。
明日は火葬に行く。
本当のお別れだ。

話はタイトルに戻る。
誰が猫を殺したのか。

殺したのは、毒物だろうか。
それとも、病気だろうか。
はたまた、神様だろうか。
いや、ぼくなんじゃないかと思っている。

あのとき悩まず病院に連れて行っていたら。
あと5分でも早ければ助かったのかな、なんて思うとやりきれない。
ぼくの判断の遅さが、猫の生命を奪ったんじゃないかと。

悲しくて、悲しくて、どうしても立ち直れない。
猫はなにを思ったのだろうか。
たったの4ヶ月の人生だったけど、幸せだったのだろうか。

いま、僕は思う。
もしなにかを迷っているのなら、すぐに決断すべきだ。
そして行動すべきだ。
迷っている時間が、後悔につながる。
その時間が長ければ長いほど、後悔は深く大きいものになる。
そして傷も深くなる。

だから何か迷うのなら、その時間に行動しよう。
きっとうまくいくから。
きっと幸せになるから。

ぼくはこの悲しい出来事を経験したことで、もっとお金を稼ぎたいと思った。
もっと稼いで、悲しい猫を減らすのだ。
もちろんお金がすべてではないのだけれど、お金があればあのとき悩むことはなかったから。
あの子が死なずに済んだかもしれないから。

ごめんなさい、野良猫ちゃん。
でも短い時間だったけど、出会えて良かったです。
ありがとう、野良猫ちゃん。

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