タコピーの原罪
この漫画はすごい。
「タコピー」という宇宙人がハッピー星からやってきたというポップな設定とは裏腹に、内容はかなり壮絶なものだった。
いじめ、育児放棄、不倫。
大人の事情に振り回されて荒んでいく子ども達。
16話という短いスパンでの連載ながら、問題提起を残した作品だと思います。
◉登場人物の設定
《しずか》
主人公のしずかは、キャバクラで働く母親と別居中の父親を両親に持っています。そのため育児放棄をされており、しずかを迎える家族はいません。
さらに、母親が友達まりなの父親と不倫し関係をもったことから、「家庭が崩壊したのはお前のせいだ」と言われ、まりなから壮絶ないじめを受けていました。
《まりな》
まりなは、家庭など考えずキャバクラに通い、それを止めようとする母親に家庭内暴力を繰り返す父親を両親に持っています。
拠り所を失くした母親はまりなに依存し、リモコンを振り上げるなどして脅す場面もありました。
家庭内が崩壊している原因がしずかにあると考えたまりなは悲惨で陰湿ないじめをはじめます。
《東くん》
クラスの委員長の東くんは、地元では有名なクリニックの医者を務める母親の次男として生まれました。
生真面目に勉強をして母親の気を引きたい東くんですが、「同じものを食べさせて、同じように育ててきたのに…」という母親のセリフに象徴されるように、人柄も良く成績優秀な兄と比較をされ、次第に劣等感を抱いていきます。
◉作品を読んだ感想
家庭環境に複雑さを抱える3人の子どもたちの様子を、ハッピー星から来た宇宙人「タコピー」という第三者目線から描くという設定が秀逸だった。
宇宙から来たため人間の倫理観や感情がよく分からないタコピーの視点で物語が進んでいく。
この作品のすごいところは、子どもたちの繊細な
内面の動きを書かずに描いているところだと思う。
まりなの紹介で出したコマのセリフ。
ここで使われる「いい子」は母親にとって、
"都合の「いい子」"でしかなく、
期待された娘を家庭で演じているため、その捌け口としていじめが行われている描写が根深い。
どの子も生まれつき問題があったというよりも、
荒んだ家庭環境や大人の事情に振り回されて、
少しずつ考え方や価値観が歪んでいくところが、
読んでいてやり切れない思いになった。
最初はいじめの加害者として描かれるまりなの過去や家庭環境が少しずつ分かっていくと、
一概にまりなが悪いとは思えなくなった。
また、教育的な観点からもすごく考えさせられた。
子どもにとってやっぱり親の存在や影響って大きくて、学校からは見えない部分で子どもにプレッシャーがかかっていたりするのだと思う。
まあ、今なら無料で読めるっぽいから、
16話しかないし興味があったら読んでみてね。
◉善意じゃ人は救えないというメッセージ
(ネタバレあり)
この作品は『ドラえもん』にあえて寄せに行っていると思われるところが多い。
例えば、主人公の名前が「しずか」だったり、
「ハッピー道具」を出せるタコピーが拾われたのは
空き地の土管の中だったり。
家庭環境に複雑さを抱えるしずかちゃん、
陰湿なイジメを繰り返すジャイアン、
出来杉君と比較されて自尊心が低い弟、
とドラえもんに重ねると説明できる。
この『タコピーの原罪』という作品は、ドラえもん的な楽観主義の考え方への批判ではないのかっていう考察を読んでかなり納得した。
そんなに現実は道具でトントン拍子で解決しないし、どうにもできない現実ってあるよね、と言ってるような作品だった。
「しすかとまりなの死に方」によく表れている。
タコピーはしずかが喧嘩しているのだと思い、
まりなと仲直りできるように「仲直りリボン」
というハッピー道具をしずかに渡す。
しかし、ハッピー道具のリボン使って、
首を括りしずかは自殺を図った。
一方で、まりなは立ち入り禁止区域にしずかを呼び出し、暴力を振るっていたところを助けようとしたタコピーによって殺されてしまう。
殺される時に用いられたのがまたもや
「ハッピーカメラ」という道具だった。
道具や助けて「あげる」という善意では、人を救うことは出来ないというメッセージ性を感じた。
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