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HYO-BO
□設計に至る経緯
施主であるBnAさんは全国でアートホテルを展開する会社で京都や高円寺にも面白いホテルを作っている。個室をアート作品化し、泊まることでアートを体験できる施設である。建築として実際に使用するので消防や施工上の問題をクリアするために、建築設計事務所が各部屋を担当するアーティストとコラボして作品をまとめていくというやり方。
今回は日本橋に出来た新たなBNAのホテルに携わる事が出来た。
僕は映像作家の上山悠ニさん(めっちゃ良い人)とコラボする形でプロジェクトに参加した。 全体のマネージメントとしてディレクターの柳澤春馬さん(めっちゃ良い人その2)が参加されていた。
プロジェクトに参加したきっかけは建築事務所のコラボレーターである森田久雄建築計画さん(めっちゃ良い人等その3)からお声がけいただけた事だった。立場としては上山さんがイメージしているイグルーの形をデザインし実現の方法を考える業務。アート制作業務。
普段、意匠設計者としてチームに入るとデザインよ決定件を持ち、場合によっては先生のような扱いをされる。まだ経験を積む段階にある身としては色々な立場で建築に関わりたいと思っていた。なので今回のようなエンジニアとデザイナーの間のようなポジションにも大変興味を持ち参加させていただくことになった。
やってみるとチームのメンバーが大変すばらしかった。アーティストの上山さんは大活躍されている映像作家だが森田さんがたまたま連れて来た僕なんかにもフラットでコミニケーションを取ってくださるナイスガイ。ディレクターの柳澤さんは大変若いのにかなりしかっりされており、かっこよいインテリアの作品を作られている素敵な方であった。森田さんはどんな問題にも前向きで僕が生意気な事を言っても「うんうん」と聞いてくれる優しい大人であった。
□設計プロセス1:コミニケーションとしてのパラメトリックデザイン
上山さんがイメージしていた「氷帽に建てられたイグルー」を実現するうえで重要なポイントは
・上山さんが納得する形状であること
・施工可能で構造的に成立する形状であること
・コストを抑え安価で実現できるディテールであること
の3つであると考えた。
当初からアクリルを使った多面体というお題もあったのでまずは形状を固めるのに自由曲面を三角分割していくスクリプトを作成した。
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プロセスはとてもシンプルで
①3次曲面をつくる
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②適当にポイントを配置
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③サークルパッキングを行い点の配置を調整
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④多角形化
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完成(ぱちぱち)である。
最初にこのプロセスを共有し、一緒にパラメーターをいじりながら形状を決めていった。共同でデザインを行う際、合意形成のプロセスがとても大事だと思う。建築の専門同士であれば言葉だけでイメージが共有できたり簡単なスケッチで打ち合わせが進むが、違う分野のクリエイターとコラボする時、パラメーターを変えるだけで、どんどんビジュアルが更新されるこのやり方は、スピード感のあるコミニケーションが取れてとても良い方法だと思った。
最終的には入り口もついてこのような形状です。
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□設計プロセス2:karambaによる構造解析
ある程度設計を進める中でチーム内でイグルーの強度についての疑問が。。僕はある程度は大丈夫だと思ってましたが確かな事は言えなかった。なので構造のプロフェッショナルの構造計画研究所のデジタルチーム(石塚さん、細見さん、福井さん めっちゃ良い人たちその4)にチームに入って貰いkarambaによる構造解析を行ってもらった。
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いくつか弱点になるポイントがわかり、形状を調整したりパイプの径を部分的にあげる、建築に固定するなどして問題解決の検討を行った。おかげで施工している段階では全員驚くほどの安定性を見せた。ホテルの安全面にも配慮して何点かをワイヤーで支持しているが構造上は不要である。
□設計プロセス3:29種類のジョイントのタイポロジー
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設計上一番重要な部分はパイプ同士をどのようなジョイントで接合するかであった。施工を行うのはアーティスト自身である事と2部屋に同じイグルーを設置するので再現性と施工の簡易化を考え、ジョイントには全て3Dプリンターを活用する事にした。パイプの長さはモデル上で計測しそれ通りにパイプ屋さんにカットしてもらった。
予算がかなりローコストのプロジェクトなのでジョイントについては素材価格が安く、表面積を最小にする事を心掛けた。以下が検討した3種類のジョイント。
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真中のボールジョイント案は当初上山さんのイメージにあったものだが、コストがかかりすぎボツ。一番右の案はパイプとの取り合いがむずかしかったためボツとなり一番左の案を採用した。一番左の案は太くなっている箇所にパイプを被せる事で簡単に施工が可能になり、かつ綺麗に納める事ができた。ジョイントの素材は一番安価なナイロンを利用した。
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実際の施工写真。パイプの中にはオーロラシートを入れる事で北極感を高めた。
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施工力高めなディレクターの柳澤さんと森田事務所の梅村さん
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ジョイントとパイプは透明なネジで接合していった。
□竣工写真(完成です!!)
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*上記3枚の写真は全てTomooki Kengakuさん。
仕上げと照明効果もありとても幻想的な空間が完成しました。イグルーのパイプに入れたオーロラシートがとても効果的で光源がないのに自ら発光しているように見えるのはなかなか面白いと思った。床仕上げは砂を混ぜたセルフレベラーであり不陸が大きな所ほど砂がたまり、不透明と透明な美しいグラデーションをつくる。反射が強い事もあり氷の上に立っているかのような感覚をつくってくれる。
コロナもありオープンの延期、それに伴って現場も延期した。関係者の方々には大変な苦労があったと思うが他にない体験が出来る空間が出来たと思う。僕個人にとってもとても面白い経験が出来たプロジェクトでした。これからも建築に関わらずワクワクするような仕事をいっぱいしていきたいので記事を見て興味を持って下さった方がいたら是非コラボしましょう!
2021年は2件竣工予定。楽しい1年になる気しかしない。