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ボタニストやサロニアで有名なI-ne(4933)によるトゥヴェール(TOUT VERT)の買収

最近は激務に反して肌の調子が良くて幸。生活リズムは依然として不規則だし、相変わらずストレスに中てられてはいるが、丁寧な洗顔と良質なスキンケア用品のおかげで毎朝鏡を見るのが楽しみになっている。そんなルンルン気分だったところに、衝撃的なニュースが飛び込んできた

シャンプーでお馴染みのBOTANIST(ボタニスト)やヘアアイロンで有名なSALONIA(サロニア)を手掛けるI-ne社が、スキンケア・化粧品メーカーのトゥヴェール社の全株式を取得し、完全子会社化するとのこと

まず何に驚いたかというと、最近の肌コンディションの良さは間違いなくトゥヴェール様々なんですよ。そんなトゥヴェールが買収されるなんて!という消費者目線での驚きでした

スキンケアに詳しい友人に教えてもらったトゥヴェールは、数年前のBOTANISTよろしく広告宣伝費をカットする代わりに良質な商品を安価に届けるタイプのビジネスモデルを取っている
実際のところ、個人的には使用感も良く、効果を実感できている一方で、価格はいわゆるハイブランドと比較するとかなり抑えられている印象

そんなトゥヴェールが美容に疎い自身まで届いたところを踏まえると、美容界のアーリーアダプターには既に認知されており、ここからマスに向けて一気に拡大していきそうだなと思っていたところだった


For sale(売り出し中)だった事実

傍から見ていると足許のビジネスは極めて順調そうで、2002年の当社創業以来、最も勢いのあるタイミングだったはず
そんなトゥヴェールを”買える”なんて、いったい誰が想像しただろうか
For saleと書くと積極的に売り出していたように見えてしまうため若干ミスリーディングかもしれないが、伝えたいのは、どれほどトゥヴェールのビジネスが順調(そう)であって、そんな良ビジネスが急成長の最中にM&Aされたという事実への驚きである

冷静に考えると、成長”率”(≠売上高)が右肩上がりするという異常な急成長を実績として見せている今がもっともコスパの良い売り時だった可能性はある。が、その急成長が続く前提でバリュエーションはしない可能性が高いように思われる。であれば営業利益やキャッシュフローがもう少し大きくなるまで待っても良かったのではないかと素人感覚では思ってしまうところ

順調なビジネスを手放すなんて何事!と感じる気持ちはもちろんあるが、売主が法人であれ、個人であれ、上場企業のようなガバナンスが明確に求められる場合を除けば、基本的には売主の意向に沿えば買える、ということか

激安に思われるバリュエーション

トゥヴェールのビジネスが順調に見える前提のもと、次に驚いたのはその譲渡価格である。プレスのとおり、株式の取得価格は100億円。当社の直近期(24/6期)の営業利益14億円のおよそ7倍での取引である

安すぎないか!!???

利益率の良い業種のビジネスであり、しかもD2C。加えて、事実として今まさに急成長中である。非上場企業ゆえのディスカウントがあるとはいえ、そんなビジネスのマルチプルが7倍というのは(印象としては)衝撃的

業界のマルチプルを見に行く元気はなかったので、買手であるI-neの数値と比較してみたい
I-neの本件公表前の時価総額がおよそ300億円で、Net cash 60億円とすると企業価値(EV)はおよそ240億円。23/12期の営業利益・当期純利益はいずれも約40億円のため、EVマルチプルは約6.0x、PER(=時価総額/当期純利益)は約7.5xと求められる
確かにこの数値と比較すると、意外と妥当な譲渡価格なのかもしれない

とはいえ、普通に考えて営業利益率が約10%のI-neと、驚異の30%超えを誇るトゥヴェールとでは全く次元が異なるため、客観的にはかなりお買い得に見える
現に、買収公表後にI-neの株価は急騰している。これはもちろん、買手よりも楽観的な対象会社に対する成長期待やシナジー等の発現期待から高騰した可能性もある。しかし、例えば、本来のトゥヴェールの価値が150億円だったのであれば、100億円で買った時点で含み益がある状態となるため、目敏い投資家たちがそのアービトラージを狙って買い注文を入れている可能性は相応にある(その結果としての株価の急騰)

財務健全性とビジネスの岩盤の強さ

最後に、少し対象会社を深掘ってみたい

まずは財務面について、I-neのプレスにも記載のとおり、対象会社は自己資本比率が高い。この数値自体はビジネスリスクと経営陣のリスク許容度に依存する部分が大きい

ただ、事業内容が「化粧品の企画、販売」となっており、営業利益率があまり改善していないところを踏まえると、製造は外部委託しているように見受けられるため、BSに載っている負債は設備投資に伴う有利子負債ではなく買掛金や未払い法人税等が主な項目と推察される

設備投資があまりなく、負債の返済にも追われていないとすると、おそらく営業CFがほぼすべて現預金として資産に計上されているはず
これはつまり、高い営業利益がそのままFCFとなっている可能性が高く、トゥヴェールのCF総出力の高さを物語っているように思う

次にビジネス面について、トゥヴェールは広告宣伝費を掛けずに良質な商品を安価に届けるビジネスモデルを取っており、この点はI-neと同じ方向性と理解
しかし、I-neがこれまで主戦場としてきたのが小売店だった一方で、トゥヴェールはECが主戦場である。特にトゥヴェールは自社ECサイトからの販売も相応にあるはずなので、そもそものマージンが相対的に高い

加えて、ボタニストやサロニアは単価が安く、数を売らなければならない。他方で、トゥヴェールは安価に提供されているとはいえ高単価である
単価が高いほど消費者の購入ハードルも高くなるため、本来であればCPA(≒広告宣伝費)は高くつくはずだが、この広告宣伝費が抑制されても集客が成り立っているとすると、30%超という高いマージンが実現されるのも納得できる

また、定性的な評価が強く入ってしまうが、シャンプーやヘアアイロンはそれ自体で効能が完結してしまうため関連商品への展開が難しいように感じる一方で、スキンケア・化粧品はラインナップの幅が広い。もちろん、化粧水はこのブランド、美容液はここ、と使い分けている玄人も一定はいるはずだが、同じブランドでスキンケア用品を揃える層も相応に想定される
その観点では、ビジネスの拡大余地も大きいのではないかと考えられる

前述のとおり、トゥヴェールは自社ECを用いているため顧客リストをしっかりと押さえている。そのうえ、定期便のような売り方(筆者も利用中)にも取り組んでおり、サブスク型で積み上げるリカーリング収入も相応に見込まれる
常に一定の見込み顧客や見込み収益が立っている状態であり、その意味での安定性も評価されるべきポイントに思われる

終わりに

自身の仕事の領域と興味関心のある領域とが重なると、一消費者である以上に自分ごととして捉えられるので調べ甲斐があっていいもんですね。何より、裏側を伺い知れたような気がして気持ちがいい
結構調べたけど、印象通りのところもあれば、意外とそうでもない(予想に反する)ところもあったりで、勉強不足は実感しました

I-ne傘下になっても良質は商品を届けてくれることを、割と切実に願っています。肌の調子が悪いとテンション下がるので

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