米不足の騒動とビールゲーム
地震による不安を契機に、店頭から米の在庫が尽きてしまった。維新の会は農水省に備蓄米の流通を要請するなど、幾らかの混乱が出ている。
記事においても、「新米の流通が始まる」という中で特段の対処を行う様子はない。こういった対応は、消費者からすると「何も対策してくれていない」という印象を受ける。
では、何もしない、ということはどういうことなのか。
ビールゲーム
流通やフィードバック制御を学ぶにあたり、「ビールゲーム」というゲームがある。小売、卸売り、製造者と役割分担とする中で、ブラックボックスとなる消費者(需要)に対してどの程度の発注をかけるかを判断するゲームである。この時、ルールとして、「在庫を確保するにもコストがかかること」、「在庫を下流に渡すことによって対価が得られる」こと、そして「発注から調達までにx週のリードタイムが発生する」ことが考慮される。
このゲームを実際にやってみるとわかるのだが、需要に対して過度に多くの量を発注すると自分達が余計に在庫を抱えてしまうことになる。また、過度に在庫を抱えてしまっていることを避けるため、需要に対して少ない量を発注して行くと、今度はみるみると在庫が減っていく。すごく当たり前のことだけど。
そうなると、特に需要が一定である場合には、その需要に対して一定の発注をし続けることが最適になる。実際の社会においては、完全には一定にならない。そのような場合にも、小売、卸、工場がそれぞれ持っている在庫の総量で吸収できるならば、小売や卸が余分に発注をかけるべきではない。
今回の米が店頭から消えている状況
流通させるべき米の総量は、消費者数と一人当たりの米の消費量で求められる。
今回、米が店頭から消えたのは、一部の消費者による過度な調達が起因していると想定できる。これらの消費者は米を大量に消費することを目的としておらず、x日分の消費を前もって調達しているに過ぎない。
また、それらの状況が報道されることで不安になった消費者も同様の行動に移ることで、短期的に店頭から米が消えたと想定される。
このような状況下で、備蓄米を含めて米の総流通量を増やすとどうなるだろうか。流通コストの増、米の値崩れ、余った米の廃棄といった副次的なリスクが考えられる。
そのため、消費者の数が格段に増えているわけでもなく、日本において米を食べる習慣が急激に加速しているわけでもないならば、短期的であろうと米の流通は過度に増やしたりするべきではない。
留意する点
ビールゲームが複雑な挙動を示す理由の一つが、「発注から調達までにx週のリードタイムが発生する」にある。反応までに一定の期間を要するフィードバック制御は、見誤ると制御を失う恐れがある。配送・輸送の迅速化や店舗・卸の発注量の見える化は、フィードバックの精度や反応を早めることに貢献するので、流通手法の高度化により、米の一時的な在庫枯渇への対策手法は今後変わってくる可能性はある。
この時、個人レベルの振る舞いとしてできることはない。せいぜい、過度な調達をかけないことくらいだ。アレルギーなど特殊な事情がなければ、うどんでも蕎麦でもパスタでも代わりのものを確保すれば良い。
もちろん、「巨大な地震が来るかもしれず、それによって流通経路が破断し、予期せず米を調達できなくなる」という不安はわからなくもない。ただ、この場合でも代替に備蓄できる食材はあるだろう。