灯火

東日本大震災の時、山形にいた僕は中学3年の卒業式前の時期だった。校舎の3階で全校生徒の合唱をしていた。全校生徒と言っても50人弱の小規模校だ。壁に架かっていたクリスマスリースの様なものが落ちたと思ったら、立っていられない程横に揺れた。2、3時間学校に待機になりそれから帰路に着いた。度重なる余震で揺れる感覚が体に染み付いていた。

家に帰ると父以外みんないた気がする。その日は電気や水道が止まり、茶の間にみんなで固まっていた。夜には蝋燭を灯した。蝋燭立ては50cm位の割と長めの物で、倒れないように見張っていた。夜、眠れずにWALKMANでラジオを聴いていた。福島第一原発が爆発したとのニュースが入ってきた。とても恐ろしかった。

蝋燭は2本程立てていた。小さな灯りでも、思ったより広く照らすことが出来ることに驚いた。オレンジの灯りは優しく温かかった。肘枕をして長い時間眺めていた気がする。蝋燭は艶かしい。火を灯すと、汗の様な涙の様な液がゆっくりと体を伝う。液は余韻を残すように下で固まる。素手で蝋燭を触ると若干のザラつきがあり、しとりとしていた。

灯りはゆらゆらと畝る。決して激しく揺れたりしない。灯りは外からの刺激に脆い。許容量を超えるとすぐに消えてしまう。それ故に、存在し続ける限りはいつも優しく揺れている。オレンジの灯りは赤子の様で、なかなか目を離すことが出来ない。それでいて抱擁もしてくれる。気づいたら眠りについていた。 

幸い停電は一夜限りだった。水道も復旧した。蝋燭を頼りにした夜は心に残った。もうあんな怖い日は来なければいいと思う。場所が幸いして被害が小さかったから、隣の県の方々にはなかなか言えない話。あの日蝋燭とその灯火に見とれていた。優しい息遣いで包んでくれる、それでいて脆い、いつか終わるもの。最近買った間接照明の優しい灯りを見て思い出した話です。

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