俺の60のキーワード【34.ダイレクト・マーケティング」
以前俺の60のキーワードでマーケティングを取り上げたが、その中でもとても重要なダイレクト・マーケティングについて。
俺のマーケティング・ルーツはアメックスにある。新卒で入社、十三年間ここで様々なことを学ぶ機会に恵まれたのはとても幸運だった。特にアメックスはダイレクト・マーケティングの会社だったので、今のネットやデジタルでの仕事に役に立っている。アメックスがダイレクト・マーケティングの会社?と思う方もいらっしゃるかもしれないが、1980年代は紙のダイレクト・メール(以下「DM」)で新規カード会員獲得に力を入れており、既存会員とのコミュニケーションは月間利用明細書をはじめとする紙のダイレクト・メールと会員誌「インプレッション」で、顧客とダイレクトに繋がりビジネスを広げるやり方である。今は、紙に変わりデジタルのメールになったけど、モデル自体はダイレクト・マーケティングそのものである。
そのため、当時のアメックスのダイレクト・マーケターにはリーダーズダイジェスト(リーダイ)出身者が多く、そのノウハウを生かしてマーケティング活動をしていた。今の方はリーダイについて知らない方が多いかもしれないが、一時はとても多くの人に読まれていた冊子である。
このリーダイは基本は書店売りではなく、直接顧客に定期購読を申し込んでもらい、毎月冊子を家庭に配送する、今でいうサブスク・モデルだった。潜在顧客リストを入手し、効果的なDMを送り、電話や新聞広告などでフォーローするやり方で、かなりの通数のダイレクト・メールを送っていたと思う。
アメックスもこのやり方で、ターゲットであるお金持ちのリストを入手し、カードを申し込みたくなるようなクリエイティブとオファーで新規獲得をやっており、一時日本で一番郵便代を払っていた企業ではないかと思うくらい、大量にDMを送っていて、中には犬宛に来た、とか、亡くなった方宛にメールが来たなど、クレームも大変多かった。当時は個人情報保護法的なものもなく、お金持ちリストや大企業勤務者リスト、高額納税者リスト、顧客を持っている企業とのリストスワップなど様々なやり方でリストを入手していた。リスト屋なる職業も堂々と商売をしていた時代である。
紙のDMなのでコストもかかる。「リスト代+郵便代+制作費」なのでその効果を高めるために様々なテストを重ね続け、費用対効果の高いダイレクト・マーケティングの追求がなされた。そのテストマーケティングもコピーやグラフィックの違い、オファーの違い、ターゲットの違いなど様々なテストセルでDMを行い、その勝者をフルに送付するため、仮説設計に多くの想像力やデータが活用された。テストはコピー一箇所を変えるだけ、など何がワークしたか、しなかったかの検証にもコストをしっかりかけていた。
1990年前後には今でいうMA(Marketing Automation)的なシステムの構築(当時はツールがなかったと言っても過言ではない)やかなり高度な統計分析によるモデリングも行っていた。
と、偉そうに語ったが、俺自身はダイレクト・マーケティングの部署ではなく、加盟店事業部だったのでダイレクト・メール業務に直接拘ったわけではない。直接お店に飛び込んで加盟店契約をいただくダイレクト・セールスをやっていた。まっ、広義ではダイレクト・マーケティングだ。ただ、こういうことが企業文化の中で自然と培われていた。
その後俺自身はインターネットが日本でも商用化され始めた1996年には広告代理店のダイレクト・マーケティング事業子会社に転職することになるのだが、まだ日本のインターネット人口が100万人を超えた状況にもかかわらずすでに事業をネットにフォーカスしており、大変ではあったが非常に良い経験ができた。俺が比較的すぐにインターネットにシフトできたベースには、ネット・マーケティングは紙によるダイレクト・マーケティングを容易にしたモノだという概念があったからかもしれない。つまり、「企業やブランドが顧客と直接つながり継続的にコミュニケーションを図る」ということがベースにあったから。
この紙のダイレクトマーケティングで経験したことは下記が挙げられる。
印刷して発送したら後戻りできないので校正を無茶苦茶真剣にやる
リスト(セグメント)x オファー x クリエイティの組み合わせを無茶苦茶真剣に考える
コストがかかるのでテストマーケティングの設計に無茶苦茶真剣にやる
うまく行かなかった理由を無茶苦茶真剣に考える
PDCAを無茶苦茶真剣にやる
デジタルによるマーケティングは比較的上記を軽んじて結果さえよければになりがちで、テストマーケやA/Bテストでもどこをテストしてるのかがわからないようなテスト・ストラクチャーになっているので、成功要因、失敗要因が不明確なことが見受けられる。特に失敗要因の明確化は重要だと思う。なぜならそこから次の打ち手も見つかるからである。
1984年入社なので39年のマーケティング&セールス人生をダイレクトマーケティングの会社で始められて良かったと思ってます。