「リング」(『いちご畑とペニー・レイン』を読む)
『いちご畑とペニー・レイン』。真島久美子、月波与生二人の川柳作家がしりとりのように句材を取り合う「いちご摘み川柳」を句集とした一冊を拝読した。
かゆいので男を一人消すことに 久美子
凹面鏡から消すPringlesのヒゲ 与生
脈絡が変わる女のヒゲ一本 久美子
動脈から蒼い馬 静脈から紅の馬 与生
袋麺独り占めする雪月夜 久美子
占いが終わらぬ人の花筏 与生
花筏他人の息で離岸する 久美子
ネットリンチ息は斜めに吐いておけ 与生
一部を抄出したが、真島の柔らかさに月波の堅固というイメージ。二人ともベテランなだけに川柳の持つ旨味を失わずいるのはさすがだ。しかし「いちご摘み」というある種の楽しそうなイメージは全く無く、まるで公開スパーリングのようにしか見えないのはぼくだけだろうか?しかし拳の応酬を見るうち、優劣ではなく両者の長所が次第に浮き彫りとなってくる事に驚いた。フェミニンな表紙に騙されてはならない。この句集は言葉の刃を斬り結び、様々な感情を作者に呼び起こし成長を促すリングそのものじゃないか。
男と女の間には深くて暗い河がある
誰も渡れぬ河なれど
エンヤコラ今夜も舟を出す
(「黒の舟唄」より)
の歌の一節を思い出す。しかし平行線では決してない。ふたりの「いちご摘み」を今後も注目すべし、だ。
里俳句会・屍派 叶裕