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短編小説 "ノンフィクション"


『そんなことない。そんなことないよ。』

男が話しかけてきた。誰だろう。
「…何がそんなことないのですか?」と聞いた。

『分からない。でも君を見ていたら、そんなことはないと思ったからそう伝えたんだ。』

男は言った。
どうも、と軽く会釈すると男はすかさず左フックを打つ素振り(そぶり)を見せ、そのまま消滅した。



小雨降るなか畦道で男が座り込んでいる。あの男だ。「どうされましたか?」と話しかけてみた。

『やっぱりそんなことあるかもしれない。もう分からなくなった。』

男はひどく落ち込んでいる様子だった。僕は男の目を覗き込み「君はきっと成功しないと思う。」と伝えた。男はしばらくしてからまた消滅した。



『それが答えかも。』

またあの男だ。「…なにが?」と聞いた。

『なにがって、このフレーズをまだ日常で自然に使えたことがないから然るべき時に備えて練習してるのさ。逆に君はなぜ練習しないんだ?』

男は言った。「うーん…僕は使ったことがあるからなぁ。それが答えかも。」僕がそう伝えると男はひとしきり泣いてから消滅した。



『"ノンフィクションです"って、笑えるね。』

男の声だ。彼は気付いているんだろうか。それともたまたまなのか。どうだろう。「ノンフィクション、そこを気にしたことはないけど、どうしてそう思うの?」と聞いた。

『だってあれ、"これは嘘じゃないもん本当だもん"ってことだろう?いかにも嘘にまみれた"君達"の世界らしい言葉だよ。なんだか腹が立つ。』

男は言った。彼は気付いていないようだ。「君…もしかして今お腹空いてる?」

『…。うん。…なんで分かった?』



『きくゎにねぇな!きくわに…ねぇなぁ!』

男がなにやら騒いでいる。練習熱心で感心するが、やはり未熟だ。伝えよう。「それ、違うよ。"気にくわねぇな!"がどうやら正解らしい。だけどこれは僕ら側の教本が間違ってるみたいだから君が悪いわけじゃない。ちなみにそれ、覚えたとしても日常会話で使うことはまずないよ。」と伝えた。

『…。気にくゎねぇなぁ。』

男は不満そうにして消滅した。




『気にくわねぇな。同じかよ。いつから気付いてた?』

「今のそれは上手い。練習したんだね、筋が良い。僕は最初から気付いてたよ。君はいつ気付いた?」

『…君が教本を知っていたとこあたり。それと、このお腹ってやつが減ったタイミングがバレたとこで確信した。なんだよ、君は何回目?どれくらいの時間ここにいる?全く分からなかった。』

「そりゃ分かるレベルであってはならないからね。それでは好奇の眼差しが向けられてしまう。僕が自分から何かアクションをおこさない限りはここ地球で僕に気付く人はそうはいないよ。それとお腹。その気持ちはよく分かる。それは人間の身体の大きな特徴だからね。君もガスだろ?僕らのような気体人には馴染みがなくとてもストレスなものだ。そのサインが出ていたから、少し君に意地悪してみたんだ。回数は色々あっての、…もう4回目かな。時間、か。どこ基準?地球の言葉で、地球の自転を基準にした時間でいうのなら、まだこの第3惑星でいうところの300年ほどかな。君は初めてだよね?」

『うん。ってことはお互いに虚構。作り事の人生ってやつだ。』

「その通り。僕らのここでの生活はあくまでもフィクションだ。目的はそれぞれ。でもだからこそノンフィクション、つまり真実であるようにみせる努力が必要なんだよ。もう一度言うけど正直…君は、まだ早い。おそらくここに根付くことにはまだ成功しないと思う。能力は高いけれど、広がりを抑えられていない。急に現れて語り出すのも、ここではやめた方がいい。僕は知っているから驚かないけど、ガス体に馴染みがないここではそれはとても異常なことだから。そこから日常会話に繋げるには無理があるよ。それと言葉、文字の繋ぎ方や単語の理解力は悪くはないんだけど…なんていうか使い方、その言葉を使うタイミングが奇妙だね。違和感がある。それも大きな特徴だ。時々そんな真人間もいるけれど…経験上違和感を感じる人間の50%は僕らのように人間ではない何かだね。それに感情が高ぶる度に毎回姿を消『あーーーーわかったよ!』

『わかったわかった。消えなかったろ?今。そんなことないんだよ。だからよ。少し我慢したらいけるはず。気にくわなななねぇなけど、次はきききっとうまくやるよ。』

「凄いな、驚いた。消えると思って意地悪したんだけどよく消えなかったね。さすが。君ならすぐに調整できると思う。次回はきっとうまくいく。」

『…ボクシング。あれれれは面白ぃいと思った。』

「ははは!確かにあれは面白い。」

『面白いよなな。俺のお気に入りはフックってやつつつねだね。ただでさえこんな…関節がやたら多くて不思議な構造してるのに、そここののを直角に固定して横にブン!だぜ?あれは奇妙で、でで面白い!戻ってもしばらくくくクセにぃなりそうだ。ブン!ってななな!』

「楽しみを見つけられて良かったね。しんどそうだ。次来るときは、もう、分かるレベルであってはならないよ。これはとてもデリケートな問題だから。過去にやりたい放題やった奴らもいる。それらの現象を人間は今でも不思議がっている。あまり混乱させてはいけないよ。次また会った時に君が同じなら、迷惑だから僕が君を始末する。」

『もちちん、…んなことなぃってあああまだちゃあ言えええててなない。あ、それ、、、が、僕らはノン、ノンノノンフィクシ答ええええあああ、か』

「素晴らしい。消えていいよ、よく頑張った。また、この世界のどこかで。」

『ま 

男は消滅した。


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日野ユタカ - アルティメットマン
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