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赤い糸を信じますか?私に起こったこと こんな不思議な経験をされた方、他にもいらっしゃいます?
エッセイ『赤い糸』です。
私が書いたエッセイです読んでみてください。
50数年前のことだ。仕事の帰りに寄った妹の職場で彼女の同僚たちとこっくりさんで盛り上がった。そんなある意味バカげた、あるいは不思議な遊びだか、ゲームだかがあることを私は初めて知った。友人が占うことに興味がひかれ、みんなの仲間に入ったのだった。
私の結婚相手の名前、その人はどこに住んでいる、いつごろ結婚するかなど、他愛のないことながら、年頃のものばかりの集まりだ、占いはとめどなかった。
そんなことがはっきり分かるなんて、じゃあ、街頭に座っている専門家よりも確実なのか、と私は思ってしまった。だいたい街頭の占い師さんが占ったとしても、私は何も信じないだろう、と心の中では思っていた。将来のことがそう簡単に誰に分かるものか、と。
「福山に住んでいる人、名前は浜松一郎、お姉さんは今年の暮れには結婚するんだ」
「ふぅーん、結婚相手がいる様でよかったね」
「早う嫁に行ってもらわないと、私が困るわ」
妹の皮肉はいつものことながら、そこまで言われて、私はそんな人が本当に存在するなら一度会ってみたい、と本気になってしまった。そう、あれからこんなにも長い年月が過ぎていったのに、今でもその名前を忘れていないほどに、心の奥底に入り込んでしまったのだった。
家に帰ってからは、母たちとその話で盛り上がった。
そんなことがあって、数か月後、計画していた通り、私は仕事をやめヨーロッパに立っていた。
目まぐるしい周りの変化、生活の変化に、そんな占いのことなんぞ忘れてしまっていた。その年の暮れには前より知り合いだったノルウェーの人と婚約していたのだ。そして、ビザのことやらもろもろの面倒なことが起こらないうちに、と次の年の3月には結婚していた。
それから何か月たったころだろうか、徐々にノルウェー語を身につけながら理解していたことがあった。それは忘れてしまっていたことをよみがえらせるものだった。夫の名前、夫が住んでいる町などを日本語に訳すとあの福山の浜松一郎になったのである。
こんなことってあるのであろうか。世間では赤い糸で結ばれている、云々と言いながら結婚していった人の話を確かに聞いたことはあったが、やはり赤い糸と言うものは存在するのであろうか。地球の裏側にいる人物と結ばれる、そんなことがあの占い、私にとってはお遊びの時点で分かったというのか。
人にその占い、そして、それが本当だったなどと言うと、それはこじつけだと言われる。じゃあ、例えの話、占われた人物が横田次郎だとすると、とてもじゃあないけど夫の名前にはどう頑張ったって結びつかない。
ノルウェー生まれの娘が6歳になりろうとしていた時、私たちは日本に帰国した。夫にとって母国より日本での生活の方が長くなってしまった。自分の性に会っているのだろうか。自分では自分自身のことを日本人だと思っている。一人でイタリアへ出かけた時など、現地の人たちに「日本人の様にしゃべり、日本人のように笑う」と言われたとかで、たいそう喜んでいた。本人はそれが嬉しくてたまらないようだ。
世の中には、やはり科学では証明されないことが時としてあるのか。夫と日本のつながり、私と夫との縁もその一つなのだろうか。夫は初めて来日するまでそんなに日本人にあった事はなかったようだった。日本の文化にそう接したこともなかったようだった。それでも、夫は日本の何かを求めていた。その求めていた心が私の何かと出会ったのだろうか。
3年前、夫は心臓の手術をした。もう母国を見ることはないだろう。いや、この一大事が起こる前も、もうノルウェーには帰らない、日本の方が好きだから、とずっと言っていた。日本はパラダイスなのだそうな。
夫に感謝しながら、私は、今さらに縁の不思議さを感じている。