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買う側の心理~買い手は、譲受候補企業のどこを見ているのか~
先日、M&Aによる企業譲受を検討している会社の代表と話す機会があった。いろいろとお話を聞かせていただいた内容を通じて、買い手(譲受側)がどのような視点で対象となる企業を評価しているのかというのが、私自身の中で整理がついたので、それをまとめてみようと思う。
1、会社概要や財務諸表のどこを見ているのか
まず、業種、売上、利益、立地や従業員の数などが自社の求めている条件に合致している会社なのかどうかというところを、当然確認するわけだが、その中でも買い手が見極めるポイントがいくつかある。以下のように、数字から読み解いていく。
・原価構成比
原価率や原価構成比は業種によってだいたい決まっており、同様の事業であれば類似した数値になるのが一般的だが、そこに異常値がないかどうかを確認する。
例えば、売上が1億円を超えているのに人件費が500万円といった極端に少ない場合(もちろんこれも業種によるが)、残業代などが適切に支払われていないのかもしれないと考察され、後々未払残業代等が問題になる法的リスクが懸念される。原価構成比に異常値がある場合、何らかのリスクを抱えている可能性があると捉えられる。
・新規売上の割合
売上自体は当然気にするのだが、その内訳として新規売上がどれくらい含まれているのかというのも重要なポイントとなる。新規売上は一過性のものとも捉えられ、次年度以降に継続しない可能性があるからだ。また、営業コストやその内訳、どのような営業活動によって得た売上なのかという部分も注目すべき点である。新規顧客を獲得するためのコストは低い方に越したことはない。売上が新規のものか、あるいは長く続いている既存のものかを見極めることは非常に重視される。
2、面談で、どこを見ているのか
企業譲受の話がある程度進むと、買い手は売り手(譲渡側)と面談を行う。この面談は売り手の会社で行われ、会社内の見学を兼ねて行われることが多い。その際に買い手がどこを注視しているのか、また面談中にどのような点に注意して話を聞くのか整理してみる。
・社長のスタンス
面談では売り手は社長が直接対応するケースが多いが、その際社長が自社の強みや弱みをどのくらい把握しているかが重要なポイントとなる。社長が会社の課題も含めた内部状況を理解し、それを正直に開示する姿勢は、買い手に信頼感を与える。逆に、良いことばかりを伝える会社は不信感を与えると話される方が多い。課題を持たない会社は存在せず、その課題に対してどのように取り組んでいるのかを見たいというのが買い手の考えだ。資料に表れてこない社長の考え方や姿勢が面談時に示されているかどうかは、買い手にとって大きい。
・社長への依存度
会社が適切に組織化されているのかどうかも重要なポイントだ。右腕、左腕となる幹部が何人いるのかなどを含め、社長への依存度がどれほど高いかは、売却後の引継ぎに関わるため、注意が必要だ。社長への依存度が高い会社は、社長からの直接の引継ぎ期間が長くなる可能性があり、逆に社長への依存度が低く、組織がしっかりと機能している会社は、買い手から好印象を持たれやすい。
・社内の雰囲気、清潔感
言うまでもなく、社員が笑顔で元気に働いているか、現場が清潔で居心地の良い空間であるかなども大事なポイントだ。訪問した際に、良い印象を持つことができるかどうか。単純に気分がいい、買いたいと感じられる会社であるというのは、実は心理的に大きく影響する。社員の雰囲気が良く、一丸となって取り組んでいる様子が見受けられれば、たとえ数字が悪くとも、この会社を何とかしたいという気持ちに結び付きやすくなる。
このような要素の積み重ねが、譲受を決断する決め手になっていく。
3、業務内容から、考えていること
業務内容から考えることは、譲受後の未来だ。以下が主な焦点となる。
・事業シナジーをどのような形で生み出していけるのか
買い手は譲渡事業の事業計画を詳細に確認する。その際、主に次の2点を意識している。
売上の向上: 譲受後に売上を現在よりも上げることができるかどうか。
コスト削減: 一緒になることでコストを抑えることができるかどうか。
売上に関しては、クロスセルできるかどうか。お互いの持つ営業活動がシナジーを生み出せればいい。コストについては、互いの持つリソースを確認し、外注をカバーできるかどうかなどを評価する。例えば買い手・売り手双方がIT企業で、譲渡側は制作を外注していたが、買い手は制作部隊を持っていて内製できていた場合、売り手の外注分を内製化することでコストを圧縮できる。
冒頭に記載した会社代表との会話をはじめ、これまで多くのM&A案件に関与させていただき、私自身も事業や会社を売却してきた経験からの考察だ。譲渡したいと考えている事業や会社がある方にとっては参考になるのではないだろうか。
と、いろいろと書いてきたものの、最終的に一番の決め手となるのは、社長や従業員の人柄だったりする。この社長が好きだ、尊敬できる、と感じることができると、それだけで心を動かされていくこともある。また、ひた向きに努力している従業員や力をあわせ課題に向かうチームの様子は、関わりたい、力になりたいと、人を動かす力になる。人と人が心で繋がることができた時は、経験も、条件も、越えてしまうこともあるのだ。
そんな魅力的な出会いを逃さずにいられるような瑞々しい感性を、いつまでも持っていたいものである。