事業承継にはどんなパターンがあるのか
前回、親族内承継についてどう捉えるかというテーマで書いたが、そもそも事業承継にはどんなパターンがあるのか。一度まとめておこうと思う。
大きく分けると、事業承継には、親族内承継、従業員承継(社内承継)、第三者承継(社外承継)の3つのパターンが存在している。
・親族内承継
文字通り、親族が後継者となり会社を承継するパターンだ。後継者となる親族としては長男が選出されるケースが伝統的に多いが、長男以外のことももちろんある。子供に女児しかいなかった場合、婿養子をとり娘夫婦に会社を承継するケースもある。いずれにしても親族に承継することになるので、将来の承継を見据えて、早めに経営者としての人材育成をすることが可能という点は魅力的だ。
例えば、早くから役員に登用して自分の仕事を近くで学ばせるというような融通も利かせやすい。また、そうした行いに対しても、承継そのものに対しても、従業員や関係者、取引先からの理解が得やすいというメリットがある。相続や贈与という形で会社を引き継いでいくことができるのも、シンプルで分かりやすい。ただ前回も書いたように、後継者となり得る人材が親族の中にいるのかというのが重要なポイントで、これが近年問題となっている。長男が当たり前に家の仕事を継ぐというのは過去の話で、時代の流れとともに、その進路は本人次第で決められるようになってきた。継ぐ意思のない長男も増えている。その上、長男であればいいのかと言えばそうではなく、経営に適した人材なのかという見極めが重要だ。
親族という小さなくくりの中で、適任と言える考え方と覚悟とやる気を持って、後を継いでくれる者がいるのかどうか…それが親族内承継の明暗を分ける。
・従業員承継(社内承継)
社内の人材の中から適任者を選出し、後継者として育てて承継するパターン。基本的には社内で実績を上げ、信頼されている人物が選ばれることになるので、他の従業員や関係者から人望が厚く、承継がスムーズに行われやすいという利点がある。また候補となる人物を決めた時点から、経営者として適任となるよう十分な時間をかけて育てていくことができるいうこともメリットだといえる。
ただ問題になるのは、承継の候補者が会社を譲り受ける覚悟を持てているのか、資金力を備えることができるのかということだ。株式を買い取ることに際して、それなりの資金が必要だ。これを個人で調達しなくてはならないというところでひっかかってしまうことが多い。
・第三者承継(社外承継)
親族でもなく社員でもない第三者に会社を引き継ぐ、つまりM&Aによる承継のパターンだ。9割がファミリー経営で成り立っているといわれる日本においては、まだ抵抗感の強い承継方法であり、親族にも社内にも後継者が見つからなかった場合に仕方なく採る手段というイメージが少なからずあるが、最近では積極的にこの承継方法を検討している経営者もいる。また、最初から第三者に承継することを前提に、起業するという人も出始めてきている。(売却にはいくつかパターンがあるので、それについてはまた別の機会に話をしようと思う。)
いずれにしても、経営者は会社の所有権を手放すことになるので、所有することにこだわりがある場合には、決断に時間を要することがある。親族または社内の人間に承継するのとは違い、第三者に承継することになるので、初めて会う相手が後継者候補、という場合がほとんどで、不安を感じる経営者も少なくはない。
言い換えれば、何のしがらみもない状態で、正しい企業価値評価に基づいて会社を承継することができる承継方法、とも言える。どんな買い手なのか、どんな仲介業者に依頼するのかによって変わってくるので一概には言えないが、ただ承継するだけではなく、その事業や会社自体をを大きく飛躍させる結果に結びつくこともある。ただし、会社の現状を把握してもらい、理念や創業からの想いなどを理解してもらうのに通常であれば時間をかけたいところだが、あまり長い時間をかけることができないというデメリットはある。最近では創業者が何らかの形で会社に残り、時間をかけて引き継いでいくスタイルも多い。この引継ぎのスタイルについてもいくつかパターンがあるので、またこれも別の機会に話せればと思う。
どの承継方法をとるにしても、会社が次の世代、未来に永く残っていくということはとても大切なことだ。
会社の倒産は、従業員や地域社会、取引先など多くのステークホルダーに対して大きな影響を及ぼす。企業の承継プロセスをサポートすることは、単にその企業の未来を守るだけでなく、その企業の持つ社会的な価値や地域への貢献を次の世代へと引き継いでいくことに繋がる。それは社会全体にとって非常に意義深いものであり、わたしはこの承継のお手伝いという仕事に大きな使命を感じている。