利益相反が起きてしまうM&A仲介業は悪なのか ~否!~
先日弊社では、四半期の決算を終えて、全社会議を行った。
弊社の決算は1月なので、今回は年度初めの会議でもあった。
そのため、この1年の振り返りの話となり、ややボリューム感ある内容となった。
今回の特徴的なプログラムとして、
重要事項説明書についてのデモンストレーションを、模範となる社員に発表してもらったというのがある。
重要事項説明書は、M&Aを考えているクライアントが契約を検討する際に、仲介契約又はFA契約の内容や違いなど、中小M&Aガイドライン(中小企業庁)に基づき説明したものである。
実はこの1ヶ月ほどの期間、コンサルタント全員に、このデモンストレーションをやってもらってきた。私をクライアントに見立てて、実際の現場でどのように説明しているのかを再現してもらったのだ。
というのも、この重要事項説明書に書かれている箇所に関してのトラブルが増加していると、中小企業庁から注意喚起があったからだ。
幸い弊社ではそういったクレームをいただくことも、大きなトラブルに発展したことも、これまでなかったわけだが、そういったことは対岸の火事ではない。自分たちにも可能性があるということを考えれば、どうするべきか考えておく必要がある。とはいえ、各コンサルタントに「そういうわけだから気を付けて」とか「意識して」と通達を出したり声をかけたりしても、それだけでは実のある注意喚起にはならない。コンサルタントによって受け止め方にも差が出てしまう。そう思い、全員にデモンストレーションの実践をとおし、振り返りと確認の場を用意した。
クライアント役をしていると、私自身も気づきを得たり勉強になることがあった。当たり前のことではあるが、コンサルタントはそれぞれに個性があり、同じ重要事項説明書を読み上げるにしても、アプローチの角度がちがったり、醸し出す場の空気が全然変わってくる。個人差が、かなりある。
デモンストレーションをしてもらう中で、一番の課題となっていたのは、M&A仲介業が避けて通れない「利益相反」をどう説明するのかという点だった。
M&A仲介として契約をする際、「利益相反」というキーワードが、時としてクライアントの不安材料になってしまうことがある。重要事項説明書にはこの点についての説明が、詳しく書かれてはいるものの、更にクライアントの状況に合わせて具体的に説明をする必要がある。
簡単に言えば、譲受側にとってメリットになることは譲渡側にとってはデメリットとなることもあり、その逆もまたあることが考えられる中で、仲介業はどういう立場をとっているのか、というようなことが取沙汰される。
確かに相反する利益を、それぞれ追求するというのは、不可能なように感じられる。
だがそれは、一点の利益のみを見ればという話である。
事業承継には、売却する目的が様々あり、単に金額では測れないものが「利益」としてあるのが実情だ。
総合的に見たときに、双方にとって一番の目的は何なのか、ということを考えると、まずはブレイクさせないで着地させる、というところがゴールになる。そのために、相反する利益を、どこまで譲れるのか、どこまでは譲れないのか、把握しながら、お互い納得できるところで調整していくのが、利益相反の中にある仲介業の腕の見せ所なのではないだろうか。
デモンストレーションを発表してくれたコンサルタントも、クライアント役(の私とは別の役員)から幾度となくこの利益相反について質問されていたが、その都度冷静に、「双方が譲り合う中で、納得いく形で着地させるということを目標として動くのが自分たちの立場である」ということ、また、「ブレイクしてしまっては意味がないので双方のバランスをとることが大事だと考えている」ということを丁寧に伝えていた。嘘のない誠実さが伝わる説明で、非常に安心感があった。
「利益相反」というと、その言葉自体が良い印象を与えないこともあるし、つい説明を避けて通りたいような気持になるコンサルタントもいるかもしれない。M&Aという業界においてもこのキーワードは問題視され、実際この部分の説明不足がトラブルの引き金になった例もあるという。
だが、そういったキーワードだからこそ、避けずに適切な説明をすることが、逆に信頼を生むことにもつながる。
例えば、チャレンジするような譲渡を考えているのだとしたら、FA(ファイナンシャルアドバイザー)として契約していただきお手伝いすることも可能だ。我々が完全に譲渡側に立ってお手伝いする方法である。選択肢は一つではない。その中でM&Aで仲介契約をと考えているクライアントや、事業承継に困りM&Aを考えご相談くださったクライアントは、一体何を望んでいるのか。「事業を承継する」という一番の目的をブレさせることなく、着地に導くこと。そして相反する利益の中、納得する結果をつかみ取っていただくために落としどころを一緒に探していくこと。それが仲介業のコンサルタントとしての、真っ当な職務の果たし方であると考えている。そこに、親身に寄り添う圧倒的な当事者意識があれば、立場としては利益相反の中にあるとしても、この仕事は決して悪にはなりえない。
今回は、難しいテーマではあったが、あらためて利益相反について全社で考える良い機会となった。
コンサルタント同士も、他のコンサルタントがどのように説明しているかを見る機会はあまりないので、よい刺激になったのではないかと思う。
今回の全社会議では危機管理広報の専門家をお呼びして、緊急時に対する研修も行った。いろいろな取り組みが、コンサルタントをはじめ、社員全体の士気を高めるものになっていればと願っている。