ゼロイチ起業家へ、第二創業のススメ
自分が経営者となって22年が過ぎた。
その間多くの経営者との出会いがあり、交流があり、自分も含め、経営者と一口に言っても、いろいろなタイプがいるというのを肌で感じてきた。
細かく分ければきりがないが、大きくは、自分で事業を立ち上げることが得意なゼロイチ(0⇒1を創り出す)起業家と、企業価値を向上させるのが得意なイチゼロ(1⇒10に成長させる)経営者に分けられる。
※ここでは省略してゼロイチ、イチゼロと呼ばせてもらう。
私自身は、圧倒的にゼロイチ起業家のタイプだ。
ゼロイチ起業家ってどんな人?
では、ゼロイチ起業家とは、どんな人のことを言うのか?
私が考えるゼロイチ起業家の特徴は以下だ。
・想像力があり、チャンスを嗅ぎ分けられる
・機会を逃さず動きだす、行動力がある
・周りの人を巻き込む力がある
・決断力があり、やり切る力を持っている
こういった要素のある人が、ゼロイチ起業家に向いている。
やりたいことをしっかり持っている分、ワンマンなタイプも多い。
自分で事業を立ち上げる、起業するというのは、エネルギーのいることだし、勇気や思い切りもいる。そう簡単なことではない。アイディアを持っていても行動に移せず、起業に至らないという人はたくさんいる。そんな中で新しい経済効果のチャンスを生み出す、ゼロイチ起業家の存在は大きい。
ただ、1つ理解しておきたいこととしては、ゼロイチ起業家が得意としているのは、あくまでも「ゼロイチ」であって、そのさきではないということだ。
どういうことかというと、
ゼロイチ起業家の持つ特徴は、起業する、新しい事業を生み出すということに対しては生きてくるものの、それをもって「経営が得意」とは言えないのだ。起業する能力と、経営する能力というのは、別のところにある。会社を、事業を、生み出すことは得意でも、それを成長させていくというフェーズにおいて力を発揮できるのかというと、必ずしもそうとは言えない。
ゼロイチ起業家の起業を具体的にイメージしてみる
例えば、初めて起業するゼロイチ起業家をイメージしてもらいたい。
個人事業主でない限りおそらく数人、同業の仲間を集めて起業するパターンが多いと思う。
やりたいこと(事業)があって、それに共感した人が集まる。経営については初めて、という人ばかりが集まるケースがほとんどだろう。経営には興味がないが、事業がしたくて参加したら経営にも首を突っ込むことになった……そんなメンバーがひとまず役員に就任してスタートするイメージだ。
事業をつくるのが得意、売上を作るのが得意というメンバーが力を合わせて事業を進めていくので、業績はそれなりに上がる。
だが、会社が成長すれば、それに伴って経営管理の必要性も求められるレベルも上がってくる。足りないものが出てき始める。経営を得意としていたわけではない初期メンバーにとっては、荷が重くなってくる。
もちろん、もうここまででいいと満足し、成長を望まないパターンもある。それは経営者次第だが、会社が成長していくことを望むのであれば、新しく経営に長けた人材を採用することが望まれる。
会社の成長に合わせ、そのフェーズで必要な人材を採っていくことができれば、次のフェーズへ、次のフェーズへと、進化していくことができる。
だがそうはいっても、大体こういった会社においては起業時から社長が過半数~100%の株を持っている(残りは役員で分配してスタートさせる)という状況もあるが故、起業家である社長を越えて有能な人材を採るというのはなかなか難しいことだ。
私はこういったゼロイチ起業家の起業のあり様を、マイナスに捉えているわけでは、決してない。
むしろ、ゼロイチ起業家はこうでいいと思っている。
ただ、自分の特徴として「ゼロイチが得意」なのであって「経営が得意」なわけではないということを、認識した上で、経営には固執しない姿勢が、会社の存続や成長に役立つということを覚えておいた方がいいとお伝えしたい。
経営に関しては、学んでいる成長過程にあると考えるとよいと思う。
起業した会社のゴールはどこにあるのか
毎年何万という会社が設立されては、何万という会社が消えていく。
そんな中で、せっかく尽力して起業した会社をどう成長させるのか、どう生き残らせていくのか。
この会社のゴールはどこにあるのか、と考えたとき、所有にこだわる必要は、あるだろうか。
経営者である自分自身が、ボトルネックになってしまっていないか。
自分自身の存在も含め、フレキシブルに考えることが、会社にとって妨げのない成長につながる。
世の中にはゼロイチは苦手でも、イチゼロは得意という経営者も多い。
外部と資本提携してそういう経営者を送り込んでもらったり、会社を第三者に譲渡するなど、うまくバトンタッチできれば、会社の企業価値が上がり、10年、20年と言わず、100年残る会社へと存続させていくことも期待できる。
経営を得意としていない社長が経営者としてとどまった場合、1億の売り上げは1億のままかもしれない。
でも例えば、そのフェーズに合った経営を得意としている経営者に譲渡したら、その売り上げを10億にできるかもしれない。
株の保有率が減ったとしても、企業価値が上がれば、そもそもを上回る可能性も大きい。
イチゼロが得意な人は以下のような特徴がある。
・人の話を聴く力がある
・分析したり課題を発見するのが得意
・自分の意見もありつつ周りの意見も活かせる
・会社の状況をよく見て判断することができる
・バランスの取れたジェネラリスト
簡単に言えば、ゼロイチにはないものがある。どちらがいいとかいう話ではなく、適材適所、会社のフェーズに合わせ、必要な人材を経営に据えるのが望ましいという話だ。
ゼロイチ起業家が経営にとどまってはいけないのか?
ゼロイチ起業家がそのまま経営にとどまるというケースの中でも、成長していく会社ももちろんある。ただ、イチゼロ経営者に経営を任せた方が、人・物・金、すべての面で課題解決が圧倒的にスピードアップする。業界動向に合わせた経営も断然しやすくなる。
もし、まだまだ自分でやっていけると思っているゼロイチ起業家の方がいたら、この業界動向に合わせた経営判断をできているのか、という点について、自問自答してもらいたい。
自分の能力や、頭の中にあるものだけではなく、業界を分析したり、先見性をもって動向を見る、という力も、会社が成長していく中で重要になってくる。
すべてを自分で賄おうとせず、後継者に引き継ぐこと、それをどのような形で行うのがよいのかを考えていくことで、さらなる可能性を生み出すことができることを、知っておいていただきたい。自分がどこまでできるのか、その見極めが肝心だ。
ゼロイチ起業家は第二創業で経験を活かすべし。
ではゼロイチ起業家はゼロからイチをひたすら繰り返すのだろうか。
先ほど、ゼロイチ起業家は、経営が得意なわけではない、経営は学んでいる途中だと考えるといいと書いた。
私は、ゼロイチ起業家は、ゼロからイチを繰り返す度、その「イチ」自体を大きくすることができると思っている。
最初の起業時、経営については素人同然だったとしても、会社を成長させていく中で経験値ができていく。その会社をある程度成長させ譲渡した段階を最初の「イチ」だとするならば、次にまた起業した時には最初の「イチ」を越えるだけの経営能力が備わっていることになる。
例えばわかりやすく社員の数だけでいうとすれば、最初の会社を30人規模まで成長させて譲渡したのであれば、30人規模の会社経営の経験はあり、ノウハウもある。その先に未知の世界、成長の機会がまたあるということになる。目標とする「イチ」も当然、前回の「イチ」よりは大きなものとなる。譲渡し、新たに創業することを繰り返す中で、自身の経営力も成長し、会社の持てる目標も大きなものへと成長していく。
だから私はゼロイチ起業家の方々には、以下の事を提唱したい。
・自分の起業した会社が社会でどのように成長、存続していくのかということを考える
・会社の成長、存続のために必要なことを、経営者の交代も含めフレキシブルに考える
・めざせ第二創業。経験を活かし新しい価値の創造に貢献してほしい。
チャンスを創り、行動に移していける人というのは、意外と少ない。ゼロイチ起業家というのは、とても貴重な存在だと思う。
その得意を活かし、また経験を活かし、1つの会社にしがみつくのではなく、ぜひ第二創業にチャレンジしていただきたい。もう親族承継にこだわったり、創業者がずっと経営に残るような時代でもなくなってきている。そういうことよりも、社会的に価値のある会社として100年後も存続させていくこと。そんな会社をいくつも生み出していくことの方が、大きな意義があるのではないだろうか。すこし規模感の大きな話になったが、ゼロイチ起業家の皆さんには「ぜひ、第二創業を」というのが、経験者である私からのメッセージだ。
なんだって、二度目三度目の方が、うまくいきやすい。